十五話 顔しか見てないのはそっちだろ
俺の質問に対し
「……っその、あの人は色んな女の子に告白されていますから…それでも、敢えて私を選んだのは…もしかしたらちゃんと性格を見ようとしているから、と思ったといいますか…」
それはつまりあの人がモテるから…と言っているのと同義だな。
加えて自分の性格が良いとも…それを分かっているのだろうか?
「つまり自分の性格は良いから、やっと気付いてくれる人がいたとでも言うのか?それに、その言い分だと結局あの人がモテるからって言ってるのと変わんねぇけど」
「うっ…」
喋れば喋るほどボロが出てばかりだな、話にならないので俺としてはさっさと正直に言って終わって欲しいんだが。
「結局 顔なんじゃねぇの?顔とかモテるとか、そういう印象でしか決めてない、つまり観月さんも人を見た目でしか判断してないってことにしか思えないんだけど?」
それが真理なのだろう、胸に手を当てて俯いている。否定さえしないということは……そういう事なんだろうな。
「それは…」
「間違ってないよな?」
そう言っても彼女は返事をしない。もう面倒なので話を終わらせようか。
「観月さんと俺って、まぁまぁ長い時間過ごしてたよな?」
「…はい」
「同じ本の話題で話したり笑ったりして、それが俺たち二人の内緒の時間って感じで、楽しかったんだよ…俺は」
あの時、二人で笑い合った時間というのは掛け替えのないものだ。
凄く楽しい時間で、幸せだったとも記憶している。だから俺は観月を好きになったんだ。
笑顔でいる時間が長ければ長いほど、それが尊いものだとそう感じるはずだ。
「皆が観月さんとあまり関われない中、俺だけがアンタと一緒に笑いあえた。そんな特別な感じが嬉しかったんだよ、だから好きになったんだ。
…アンタは違ったけどな」
「っ…それは…」
でもそれは俺の独り善がりだったのかもしれない。
彼女は俺と距離を置くためにあの男を紹介してきた。
あれだけこき下ろされて嫌な気分になったし、もし他の人間が彼女の立場だとして、あの場面に直面すれば誰だってあの男を止めるはずだ。
だって自分の友人に暴言を吐くわけだからな、本来ならば不愉快なはずだ。
「結局アンタも、人を顔で見てたんだよ。だからロクに関わったこともないあの男とあっさり付き合ったんだろう?」
「ちっ違います!だって私……私は…」
目に見えて狼狽しているし何か弁明しようとしているが、みるみるうちにその顔色は悪くなる。
「間違ってないだろ?アイツとも付き合ってないとか、アイツが特別な関係で付き合ったとかならともかく、そうでもなかった。
そんな人間に告白されてコロッと靡くようなら、アンタはその程度の人間ってことだ。あんな風に平気で人を貶すような人と付き合っていたんだからな」
「あぁ…ぁぁぁ…」
目に涙を浮かべ、両手を口元に添える。
何かを悲しむような、後悔するような…いずれにせよその胸中は暗いものだろう。
しかし今の今まで自分が何をしていたのか分かっていないのだから自業自得だろう。
自分が外見で見られたくないと思っているのに、当の本人が人を外見で判断していたのだから。
「そんな、つもりじゃ…っうぅ…」
「泣いても笑っても事実なんだよ、そうじゃなきゃアンタの行動に説明つかないだろ」
彼女がどういうつもりかは知らない。
だがどんなつもりでもないというのなら、俺の言っていることは間違いではないはずだ、彼女が自覚していないだけで…ね。
その証拠に酷く狼狽しているのだから。
「いい加減認めなよ、観月さんは樹くんを突き放したんだし、しかもあの先輩を連れてきて樹くんがバカにされてるのに止めたりもしなかったよね?今更別れたのも自分が体で見られてるからでしょ?別に樹くんが悪く言われたなんて、そんなの後付けだよね?」
「違います!」
狼狽している彼女を見ていられなかった紗奈さんが冷たく言い放つが、それを観月が強く否定する。
しかしその否定は、彼女自身の行動によって信用できないものとなっている。
「違かろうが正しかろうが他ならぬアンタのやったことでそう思うしかないんだよ、アンタ自身の態度がなにより物語ってるんだからな」
「それはぁ…ごめんなさいぃ…」
先程よりも大粒の涙を流し涙声で謝っているが、いたたまれない気持ちになってくるので早く終わらせる。
「そういう事だよ、観月さんがなんて言おうと俺はどうしても疑っちゃうわけ。それに距離を置こうと言ったのもアンタだろ?だからもう話は終わりだよ」
彼女の返事を待たずに踵を返す。
「まっ、待って…樹く」
「じゃあな」
これ以上時間をかけると俺のメンタルに異常が出てしまう。
一度頭を冷やして自分のした事がどういうことかきちんと理解して欲しいものだ。
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