四話 それぞれの思い
昨日
「おはよう、
「おはよう紗奈さん」
改めてお互いの名前を呼び合う。
昨日は電話越しだったけど対面で呼ぶのは初めてだ、だからお互い照れ臭くなって顔を背けてしまう。
「じゃあ、行くか…」
「だね…」
少しぎこちないながらも並んで歩く。
心なしかお互いの距離が縮まっていて、ふと彼女に目を向けると今にも肩が触れそうになっていた。
七瀬さんの気持ちに向き合う、そう決めてどうするか考えた俺は彼女の手を握った。
「っ…えへへ♪」
急に手を握られた彼女は、驚いたもののすぐに嬉しそうに頬を緩ませた。
昨日のこともあり彼女のことを意識し始めているからかとても魅力的な笑顔に見える。
特に言葉を交わしてはいないが、彼女の手から伝わる温もりがとても心地良い。
多分俺は、自分が気付いていないだけで既に彼女を好きになってしまっているのかもしれない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
学校へ向かう道、その途中で私が見たのは
あれだけ私に告白しておいて、振られたからとすぐに他の女の子と良い関係になるなんて、やはり彼は先輩と違って不誠実な人なのかも知れないと失望する。
先輩ならきっとあそこまで軽い人じゃないはずだから。
そう思うとやはり先輩は格好良い。
顔立ちも良いし体もがっしりとしていて、堂々とするその姿は俗に言うイケメンだろう。
対する樹くんは、性格は物腰柔らかいものの、顔はあまりパッとしないし体つきも程々だ、先輩の足元にと及ばない…と思う。
それなのに、どうしてか樹くんが七瀬さんと仲良くしている所を見ていると、胸がざわざわと騒ぐような感覚がある。
苦しいような、何か違和感がある。
今まで感じたことの無い感覚が私を支配し、それがジワジワと気分を重くしてくる。
きっと先輩と会えば治るはずだと、私は彼らから目を離して学校に向かう足を早くした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
やっぱりなんでも行動してみるものだと思う。
といっても傷心の彼に告白しただけだけどね。
私は樹くんのことを何年も前から好きだった、彼は全然気付いていないけど、私たちは小学生の時に関係があった。
でもあの時は、私が家庭の事情で引っ越してしまった為に長いこと会えなくなり、彼に会いたいという気持ちだけが大きくなった。
そうして数年経って、私は高校生になろうと今通っている高校の合格発表があった日に彼と再会したんだ。
その再会のお陰で彼が大好きになってしまったけど、それもあって彼を見る度に恐縮してしまっていた。というより臆病になっていたんだ。
これほど素敵な人と私が釣り合うわけが無い…ってね。
そうしてウジウジとしてる間に彼は観月さんと仲良くなっていて、落ち込んだことを覚えている。
あの二人ならお似合いだね…だなんて思った。
でも実際は全然違って、彼は観月さんに片想いをしていて更に何度も振られたという。
付き合うとかそんなんじゃない関係であると知った私は、もう後悔したくないと彼と一緒にいられるように行動しよう思った。
その矢先に観月さんがあんな事をするなんて…。
あんな人の為に私は自分の恋を諦めようとしていただなんてあまりにも馬鹿らしいと思った。
絶対に樹くんを彼女には渡さない。
あんな軽薄で最低な先輩が好きなら、もう二度と樹くんに近付かないで欲しい。
そう思って彼にアプローチをしたし、ちゃんと私の想いも伝えた。そして彼はちゃんとその気持ちに向き合おうとしてくれてる。
私は絶対に諦めないからね、樹くん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます