四度の告白《おもい》は砕かれるー今更好きだと言われても

隆頭《サカド》

プロローグ

「…どうしてですか…たつきくん…」


 私は、七瀬さんと一緒に歩く御堂おんどう たつきくんを見てそう独りごちる。


 確かに私は彼の告白を振ってしまった。

 けれど…もう他の女の子の事が好きになったの?

 こんなに早く?


「私の事を見てくれてるのは、あなただけなのに…」


 あの人と付き合ってみて分かった、やっぱり樹くん以外の男性は、私と関わる時にいつも身体ばかりを見ている。

 けれど彼はちゃんと私自身を見てくれた。

 私の努力や、お世辞にも良いとは言えない性格をちゃんと見て、肯定してくれた大切な人…それなのに…


 彼はもう、振り向いてくれないのだろうか……



 ​───────​───────​──────



観月みづきさん、好きです!付き合って下さい!」


「ごめんなさい 」


 はぁ、やっぱりダメだったか……

 俺が観月さんに告白して四回目、もう諦めるべきかなぁ……


「あの…樹くん…」


「うん?」


 神妙な表情をした観月さんが冷たい声色で俺を呼んだ。


「私たち、少し距離を置きましょう」


「えっ…」


 今まで、ちょくちょく二人で本の話題とかで盛り上がっていたけど、もしかして……


「私たちはこういう関係になるべきじゃないと思うんです。だから少し離れて、頭を冷やしてください」


 彼女はそう言って俺の返事も待たずに背を向けて離れていった。

 俺は 拒絶するようなその背中に声を掛けることができず、ただ立ち尽くすことしか出来なかった。


 トボトボと家に向かって歩く。

 観月さんとの時間は俺にとっての大事な時間だった、ただそれだけを大切にすれば良かったのに俺は……

 自分でその時間を壊してしまった。

 欲張ったからの結果であり自業自得なんだ。俺が彼女と付き合えるなんて、そんなのは幻想でしかなく現実では無い。


「大丈夫?御堂おんどうくん」


 後ろから声を掛けられて振り向く。

 そこにいたのはクラスメイトの七瀬ななせさんだった。


「うん、まぁね」


「ウソだ、だってそんなに顔色悪いもん…それに振られちゃったでしょ?」


「え…」


 まさかの発言に俺は驚く。いつの間に知られていたのか?


「ごめんね?ちょっと見ちゃったんだ…」


「あー、まぁ…辛くないと言えば嘘になるよ…でもまぁ、しょうがない」


 観念して正直に胸中を吐き出す。勘違いしていた自分が悪いんだ、ただそれだけ。


「ふーん?…もし御堂くんが良かったらさ、今からちょっとだけ話さない?」


 手を後ろで結び前かがみになった彼女がそう告げた。


「別にいいけど…え?」


「よし!じゃあ行こ!」


 話すと言っても何を?

 そう困惑する俺の手を七瀬さんが引っ張る。


「ずっとお話したかったんだ!」


 手を引いてそう笑う彼女は、夕日に照らされて凄く可愛らしかった。



 夕暮れ時の公園で、彼女と二人でベンチに座る。


「何回か告白してなかったっけ?」


「まぁね、四回告白したよ。全部ダメだったけど…」


 なんで行けると思ったんだろうなぁ…これがあれか、恋は盲目ってやつか。

 普通なら三回目で諦めるだろうが、最後にもう一度告白してみることにしたんだ。


「好きになったのはやっぱり、観月さんが美人だから?」


「いや、俺があの人を好きになったのは…関わっているうちに自然となんだ、別に見た目だけって訳じゃない」


 そう、俺が観月みづき かなでさんを好きになったのは彼女の人となりを見てのことだ。

 顔に興味がないわけでも身体に興味がないわけじゃなけど、一番大きいのは彼女のことを少しだけ近くで見ていたからだ。我ながらチョロい。


「ふーん?確かに二人で喋ってるのはよく見てたけど…」


「そうだね、趣味が近かったから…ここ最近では一番喋ったかも」


 あまり人が来ない図書室で二人きり、あそこまで読書という趣味で盛り上がったのは彼女だけだ。


「マジ?あの高嶺の花みたいな人と?」


「マジ」


 だってそんなに友達いないもん、学年に五人もいないよ。

 図書室だってあまり立ち入る人がいないから、自然と二人きりになるタイミングも増えるし、話が出来る時間も多い。


「へー…他の男子が聞いたらヤバそう」


「やめてよ、それが嫌で最初は避けてたんだから」


「え?そうなの?」


 そうなんです、図書室で本読んでたらあちらさんから話しかけてきたんです。

 わざわざ離れた場所に座ってたのに。

 でも話をしているうちに自然と楽しくなって、たまに彼女の愚痴だったり悩みだったりを聞いていて、少しずつ彼女のことを知ったんだ。


 いつも凛としている彼女の色んな姿を見ることが多くなって、自然と好きになったんだ。


「へぇ、そんな感じだったんだ…」


「そっ…まぁその喋る時間も無くなったわけだけどさ…」


 思わずため息が出てしまう。

 結局あの時間を楽しんでいたのは俺だけで、観月さんにとっては取るに足らないただの暇つぶしだったのだろう。

 どこまでも独り善がりな、情けない話だよ。


「じゃあさ…」


 七瀬さんの目の前であるにも関わらず落ち込んでいる俺に、彼女が閃いたように何かを言い始めた。


「これから、放課後は私と話そうよ」


「え?」


 これは失恋した哀れな男と、その男のことが気になっていた女の子が出会うお話…ってとこ?

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