第3話 辞める勇気

 介護施設「すみれの郷」での業務は、日々中村の精神を蝕んでいた。蜂須賀蛍、赤澤龍子、折原拓也、西澤映の4人によるパワーハラスメントは、次第にその苛烈さを増していった。彼らは、業務の進行が遅れるたびに中村を非難し、些細なミスも見逃さず、執拗に責め立てた。


**「中村さん、あなたのせいで他の人がどれだけ迷惑しているか、少しは考えているんですか?」**

 蜂須賀は冷酷な視線を向け、厳しい口調で叱責した。赤澤もその横で嘲笑を浮かべながら、

**「いっそ辞めた方がいいんじゃない?」**

 と、軽蔑の色を隠さずに言い放った。折原と西澤も、その場にいるだけで中村に圧力をかけ続けた。


 次第に、中村は心身共に限界に達していった。彼の熱意と献身は、同僚たちによって徹底的に否定され、追い詰められていった。施設内での孤立感は増すばかりで、夜も眠れず、食事も喉を通らなくなっていた。


 ある日、中村はついに耐えきれなくなり、退職を決意した。彼にとって、この職場でこれ以上働き続けることは、自分自身を壊すことと同義だった。高齢者たちのために尽力してきたが、今ではその努力が全く報われないどころか、職場での地獄のような日々が続くのみだった。


 中村は退職の意思を固めたものの、これまで築いてきた職場でのキャリアや、自分の仕事に対する責任感が、彼の心を縛りつけていた。また、上司や同僚たちが退職に反対し、さらなる圧力をかけてくることも予想された。


 そんな中、中村は偶然、退職代行業者の存在を知る。彼はネットで調べるうちに、自分のように職場で追い詰められた人々が、退職代行サービスを利用してスムーズに退職できた事例を見つけた。これが彼の心に大きな希望をもたらした。


 中村は、退職代行サービスを行う「結城事務所」に連絡を取ることに決めた。この事務所の代表である結城誠は、過去に多くの困難なケースを解決してきた経験豊富なプロフェッショナルだった。


 電話で結城と話した中村は、自分の状況を説明した。結城は落ち着いた声で中村の話を聞き、彼が置かれている状況がいかに厳しいかを理解した。そして、中村が安心して退職できるよう、全面的なサポートを約束した。


**「中村さん、私が全てお引き受けします。あなたはもう、この問題に一人で立ち向かう必要はありません。退職は、あなたの権利です」**


 結城の言葉は、中村にとって救いの一筋の光だった。彼は結城に信頼を寄せ、自分の退職手続きをすべて任せることに決めた。


 結城事務所は迅速に動き出した。中村の退職の意思を伝える文書を作成し、施設の上司に送りつけた。これにより、中村は退職の意向を直接伝える必要がなくなり、職場に顔を出すこともなくなった。


 その結果、中村は精神的なプレッシャーから解放され、ようやく落ち着きを取り戻すことができた。結城のプロフェッショナルな対応により、中村の退職手続きは順調に進み、最終的には無事に退職することができた。


 中村は、結城誠に心から感謝の意を示し、新たな人生を歩み始める決意を固めた。彼は今後、過去の苦しみから解放され、自分自身を取り戻し、新たな道を模索していくことになるだろう。


 

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