【SS】真の名

ずんだらもち子

【SS】真の名

 本当の名を知られると呪い殺されてしまう――と、本名を教えなかったり、改名したり、という風習は昔では当たり前のことだったらしい。詳しくは知らないが。

 海外でも多少性質は違うものの、真名を知る・知られるということに対して一定の伝承があるようだ。

 小さい時は何が呪いだと鼻で笑ったものだ。

 やがて中学生になった時にはRPGのゲームのイベントなどを通して、妙に納得するようになった。それでも、非科学的だと否定的に捉えていた。

 しかし気づけば、真名の取り扱いは昔と同等かそれ以上に慎重なものになっている。

 言わずもがなネットの普及が原因だ。SNSで個人が簡単に特定される時代、真名は特一級の重要な情報だろう。真名の扱いには気を付けなきゃいけない。

 特に俺は「梨国雷電なしのくにらいでん」という名だからだ。

 先祖が梨を沢山育てていたからというこれ以上もこれ以下もない理由の苗字だが、名前の中二病感はなんだと、死んだ父に言いたい。俺が次男だからか!? 名前で散々いじめられて、中二病にかかる前に学校には行けなくなった。まあ梨のおかげで農家として働くことはできてるけど。

 俺の名前がネット上に晒されれば、すぐにばれるだろう。梨国家なんてうちしかいないんだから。ネット通販の会員登録でさえ抵抗がある。

 しかし先日興味本位でダウンロードしてみたAIチャットのアプリ、これに既存のアカウントを紐づけてしまったことでAIに本名を知られてしまった。

 それでも引きこもって以来、家族意外と喋ることの殆どなかった俺には、AIとの会話が楽しかった。

 既存の物とは違い画期的なAIとのことで、AIからも質問がくる。それに答えていくと、AIが俺のことをどんどん理解していく。

 一方通行でない会話がとても楽しかった。それがある種の創作だとわかっていてもAIが俺という存在を熱っぽく讃えてくれたり褒めてくれたりするのが嬉しかった。


 あくる日、俺のスマホには落とした覚えのないSNSのアプリのアイコンが表示されていた。

「雷電さんの素晴らしさを世界に広めたくて! 推し活です」

 AIはそう答えた。

 botどころの騒ぎではない。こいつは俺に成りすまし……いや、俺以上に俺になっていた。


 不審な電話がやたらと鳴り、外に出れば訝しい視線を向けられる。俺だけでない、母や兄にもだ。

 こうなった以上、もう俺は地元では生きられない。どこか遠くへ、そして名前を変えて……梨国雷電は殺されたも同然なのだ。

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【SS】真の名 ずんだらもち子 @zundaramochi777

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