ハンターティーチャー

@5252kisama

第1話

 二人で寝ても十分な広さのベッドに、一人の裸の女性が横たわっている。

 口で息をしているのか、「フーウ」と低く囁くような息遣いが聞こえる。

 か細い息遣いが確かに聞こえるが、周りが暗くて彼女が本当にか細いのかは分からない。


 部屋の床は珍しいガラクタで埋め尽くされており、むしろか細いというよりは金持ちの叔父さんのような印象を与えるが、確かに彼女は女性だった。職業が職業だから仕方なく骨董品を集めていたが、整理する気がなく、ただ周りに放り出しているだけだった。


 そんな彼女の職業は「神」。


 彼女は久しぶりに深い眠りに落ちたのか、穏やかな雰囲気を醸し出しながら夢の中をさまよっている。

 そうして彼女が一人の時間を楽しんでいる時──。


「パッ─────!¬」


 と、部屋の隅で小さく丸い光が現れた。光は強いが、音がなく、寝ている裸の女性を起こさないように静かに人間の姿に変わっていく。


 まず、実体化したのは顔だった。


 ヘアスタイルは黒いボブカットで、左側の髪を左耳にかけて、上品さを漂わせている。顔は小さいが目が大きく、笑うだけで愛嬌が溢れそうで、頬に少し肉が付いているため、年下好みの人なら誰でも好きになるだろう。とはいえ、子供っぽくは見えないのは、整った歯並びのおかげだろう。


 顔だけ見ると、可愛いイメージと清純なイメージの中間あたりだが、もしかすると可愛い方に票が集まるかもしれない。そんな彼女は「英国紳士帽」と呼ばれる黒いフェドラハットを被り、その個性を一層引き立てている。フェドラの縁もフェドラと同じく黒く、光沢があり、かなり高価なものと推測される。


 顔の次に実体化したのは上半身だった。


 地面に届きそうなほど長いブレザーが、背中の腰のあたりで二つに分かれている。ブレザーの前は腰の下がなく、その中には真っ白なワイシャツと黒い蝶ネクタイがあったが、ここまでくると誰もが下半身を想像するだろう。


 彼女は、確かに女性用タキシードを着ていた。それも少しセクシーなタイプにアレンジされたものだった。


 ワイシャツは一般的なものとは違い、通常あるはずのボタンの位置にボタンはなく、代わりに100円玉くらいの銀色のリングが付いていた。そのリングは半ばゆるく付いていて、ゆるい隙間に絶妙に小さな鍵がぶら下がっている。


 さらに、その銀色のリングより少し大きな金色のリングが、ブレザーの胸元の両側に一つずつ付いていた。


 大きさは500円玉ほどで、付いている場所がなんとも微妙な位置なので、見る者の視線を誘う。胸からぷっくりと突き出たその位置にぴったりと重なっており、ぶら下がっている鍵は他のものと比べて古びて見える。その鍵に合う箱は、金銭では計り知れない価値があるのかもしれないという秘密めいた鍵だった。


 最後に実体化したのは下半身だった。


 パンティーと間違えそうな黒いショートパンツに白いガーターベルトが降りてきて、白いストッキングと絡み合い、そのまま滑らかな曲線が足先まで続き、誰もが目を離せなくなる。ハイヒールを履いているせいか、脚のラインが一層際立ち、実際にも骨盤の位置と適切な太もものボリュームのため、脚のラインだけでなく、下半身全体がまさに神が与えたもののようだった。


 いや、神だからこそ、そのような姿も当然かもしれない。


 彼女の身長は170cmで、顔、上半身、下半身、そのどれもが息を呑むほど美しかった。


 そんな彼女がベッドで眠る女性をじっと見つめる。


 そして突然、こう叫んだ。


「キャーーーーー!!!」

「キャーーーーーーーーーー!!!」

「キャーーーーーーーーーーーーー!!!」


 まるで子供が欲しいものを買ってもらえなかったときに出す声、彼女の声はまさにそんな感じだった。


「うわああっ!?」


 驚いて飛び起きたベッドの上の女性は、周りが暗いため、顔の表情ははっきりと見えないが、声だけで表情が想像できる。表情だけでは足りなかったのか、こんな言葉を付け加えて状況を確認する。


「何?! 何なの?! 何があったの?!」

「寝られる?! 寝られるっていうの?! あんなクズたちを送りつけておいて、どうして寝られるっていうのよ!!」


 寝起きの裸の女性に向かって興奮した声で喚き散らすガーターベルトの女性は、迷惑だと分かっていながらも、自分の気持ちを訴え続けた。


「本当に、ほんとーにひどいわ! 助けてくれる人を送ってくれって頼んだのに、変な価値観を持った奴らばかり!! これじゃあ、寄生虫よりもあいつらが私たちの世界を破壊するわよ!」

「ああ、何かと思ったら……。」


 寝起きの女性は状況を理解したのか、一息ついてから再び口を開いた。


「知ってるでしょ? 地球は私一人で管理してるから大変なの。変な奴が多いから、変な奴が来るのは仕方ないじゃない。」

「嘘! 嘘よ! ただ面倒くさい奴らを送ってるだけじゃない!」

「いや、違うって言ってるでしょ?」

「キャーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


 耳が裂けるような音が室内に響き渡る。表情を歪め、耐えきれなくなった裸の女性は、とうとう降参してしまった。


「わかった、わかったから! ちゃんとした奴を送るから、それで終わりにしてくれ! 本当に気が狂いそうだ!!」


 ようやく望んでいた答えが返ってきたようで、ガーターベルトの女性は欲しいものを手に入れた子供のように笑みを浮かべた。


「ヒヒッ。」


 その様子が癪に障った裸の女性は、軽く一発叩いてやりたかったが、結局呆れたように笑って済ませた。そして再びガーターベルトの女性を見つめ、好みを言ってみろというような感じで尋ねた。


「ふーん、どんな奴を送れば満足するのかな~?」


「私たちの世界観に合った子、うまく適応しながら! 向上心が高く、自分自身に何かを常に求め続ける奴!」


「なるほど、なるほど……。却下する。」


 きっぱりとした返事が返ってくると、ガーターベルトの女性は長くうめき声を上げ、再び叫ぼうとする。しかし、裸の女性はそれに気づき、素早く彼女のそばに近寄り、口を手でふ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る