暗黒MEN

あんぽんタソ

第一章 ダークヒーロー、見参

第1話 パワハラ上司に暗黒キーーーック!

我らは暗黒MEN!


今日も地球の暗黒を駆逐するため、月の裏側で密かに地球人の助けを求める声を聞いている。


「隊長、地球人からメッセージが届きました」

「何!? どんな内容だ!」


暗黒MENの隊長『暗黒ブラック』は、隊員たちを招集し、地球人からのメッセージに耳を傾けた。




隊員は隊長を含め5人。


暗黒ブラック(隊長)男性

暗黒ブルー(副隊長)男性

暗黒パープル(隊員)女性

暗黒ブラウン(隊員)女性

暗黒レインボー(最終兵器)女性型アンドロイド




作戦室のモニターには、疲れ果てた顔付きの男性が、虚な目でカメラに向かってボソボソと呟いているのが見えた。


「もうさ、俺なんて死んだ方がいいんだ。あの上司からは逃げられない。会社を辞めるなんて……絶対に無理だ」


そう言いながら、男性はポロポロと涙を流す。


「う、ふぐっ、辛そうだ……! 見てられん……!」


暗黒ブラックは、モニターの男性の涙にもらい泣きを始めた。


「この、『ダークサイドヒーローズ』で検索すると出てくる、月の画像をクリックすると、『暗黒MEN』が助けてくれると聞きました。どうか……俺を助けて下さい!」


『ダークサイドヒーローズ』のウェブサイトは、暗黒レインボーが作った特殊サイトで、不思議なチカラにより月の裏側の基地『暗黒MEN本部』に接続され、カメラがなくても動画メッセージを送ることが可能である。


暗黒ブルーは、男性の深刻なメッセージに、力強く応えた。


「隊長、行きましょう」

「おう! 総員! 暗黒船『ダークネス・ファイナルアロー』に乗り込め!」

「「「はっ!」」」



デデッデッデッテ♪ デデッテーデーレ♪

デレッテ♪ デレッテ♪ デレッテーレーレ♪



基地の廊下のスピーカーからは、暗黒MENのテーマソングが流れ出し、隊員たちは急いで暗黒船に乗り込んだ。


「ダークネス・ファイナルアロー! 発進!」


暗黒ブラックが発進を指示すると、ダークネス・ファイナルアローはゆっくりと浮上し、地球に向かって飛び出した。


その速度は常識を超え、およそ39万キロという長い距離を15分で飛行する。



「目的地は栃木県芳賀郡芳賀町。ここに依頼人に対して日頃からパワハラをし続ける暗黒野郎がいるそうです」


暗黒パープルは、事前に調べた依頼人の情報を皆んなに伝えた。


「暗黒野郎は牛斧智治53歳。昨日は依頼人に対して、書類の誤字により部長に叱られたと訴え、午前0時までタイピングソフトでの入力トレーニングを無理強いしたとのことです」

「うしおの? 珍しい苗字だな。というか、誤字を見つけられなかった牛斧にも責任があるじゃねーか! とんだ暗黒野郎だな!」


暗黒ブラックは自動操縦中の操縦桿を蹴り飛ばした。


バキッ!


操縦桿は折れ、ダークネス・ファイナルアローは明後日の方向に飛んでいった。


「隊長! アンタなんて事を!」

「「「うわーーー!」」」


コクピットは非常灯が赤く点滅し、予定進路から逸脱したことを知らせるアラームが鳴り響いた。




――埼玉県和光市。




牛斧は埼玉県に出張に来ていた。


ストレスなど全くない軽い足取りで、駅前のロータリーを鼻歌まじりに歩く。


すると……




ボガーーーーン!




「うわっ! なんだ!?」


牛斧の目の前に、ダークネス・ファイナルアローの先端が突き刺さった。


コクピットのハッチが開き、暗黒MEN達がよろよろと出てくる。


「ターゲットを確認。牛斧本人と断定します」


暗黒レインボーが顔識別により牛斧を確認すると、暗黒ブルーが驚いた顔で暗黒ブラックを見つめた。


「隊長……まさか、牛斧がここにいるとわかってて……?」

「お、おう! 当たり前だ! あのまま栃木に行っちゃったら牛斧は不在で、なんかこう、変な感じになっちゃうだろうと思ってな!」


暗黒ブルーは、たまにヘマをやらかす暗黒ブラックが隊長に向いていないと思うこともあったが、考えを改めた。


「な、なんだお前ら!」

「牛斧だな? 我らは暗黒MEN! 貴様を成敗しに来た!」


この言葉と同時に、暗黒MENは隊列を組み、決めポーズをした。


ボーーーン!


どこからともなく彼らの背後に色とりどりの爆炎が上がり、暗黒MENが現れた事が周囲に知れ渡る。


「キャー! 暗黒MENよー!」

「暗黒MEN! 僕も見たい!」

「今日の暗黒野郎はあいつね!」


暗黒MENの地球での好感度は高かった。


今日はパワハラ上司で少しインパクトに欠けるが、過去には通り魔殺人をしておきながら無罪となった暗黒野郎を成敗した実績もある。


「くそ! 暗黒MENが現れるなんて! 俺は何もしちゃいないぞ!」

「しらばっくれるな豚野郎!」


バゴーーーン!


暗黒ブラックの目にも止まらぬ暗黒パンチが牛斧の左頬に突き刺さった。


「ぐはーーー!」


すかさず、暗黒パープルと暗黒ブラウンが牛斧を拘束し、暗黒ブルーが大声で周囲の人達に聞こえるように、いかに牛斧が暗黒野郎か説明を始めた。


「牛斧智治! 貴様は部下にパワハラを繰り返し! その人生を踏みにじった!」


周囲の人達は納得の表情で暗黒MENを応援した。


「このパワハラ野郎!」

「暗黒確定だな」

「うわーん! 怖いよお母さーん!」

「おーよしよし。大丈夫よ。暗黒MENがやっつけてくれるから」


「お、俺はパワハラなんてしてないぞ!」

「パワハラ野郎は皆んなそう言うんだ! じゃあ昨日のタイピングソフト強要は何だったのか説明してみろ!」

「あ、あれは……教育だ! お前らにとやかく言われる筋合いなんてねーよ!」


すると、暗黒ブラックの全身から黒いオーラが吹き出し、フルフェイスマスクの目が鋭く光った。


ゆっくりと牛斧に近づきながら、怒りの感情で『最後の一撃』に備える。


「教育……部下のため……会社のため……パワハラ野郎はいつもそうやって『テメーのため』の無駄な仕事を押し付ける。貴様は救いようのないクズ野郎だ」


そのオーラに、牛斧が完全に怯えると、牛斧の腹がグネグネと波打ち、口から黒いナメクジのような生物が這い出てきた。


「おごええええ!」

「やはり。暗黒寄生虫に支配されていたか。もはや、容赦はせん」


暗黒ブラックは、牛斧の体内から逃げ出そうとする暗黒寄生虫に向かって飛び掛かった。



「暗黒キーーーック!」


ドゴオオオオオオオン!


「ギョエーーーーー!」



暗黒寄生虫は、まさに空中へ逃げ出そうとしたところで、暗黒キックにより爆発四散した。


「キャー! 暗黒ブラックかっこいいー!」

「暗黒寄生虫こわいよう!」

「大丈夫よ。暗黒ブラックがやっつけてくれたわ」


暗黒MENは、失神した牛斧を放置し、地面に突き刺さったダークネス・ファイナルアローに乗り込んだ。


去り際に、暗黒ブラックが民衆の歓声に応える。


「我らは暗黒MEN! 明日も暗黒野郎を成敗する! さらば!」


「わー! 暗黒MENー!」

「また来てねー!」

「応援してるぞー!」



かくして、地球の平和は守られた。



つづく

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