第十三話 両国の状況

バストリア王国の王城。


「ウルングルからの連絡はないのか」

「はい。エルフ王国との国境へ痕跡が続いてるのが見つかりましたが……」

「しくじったと見るべきか」

「恐らく」

「第一騎士隊と第二騎士隊を統合せよ。国境付近の伯爵、侯爵へ兵を出せと伝令を」

「まずは国内の掌握が先かと」

「エルフどもと結んだ条約、我らは長きに渡って忍耐を強いられたではないか」

「国内が納得しますかどうか」

 「世が新しいバストリアの歴史を築いて認めさせれば良い。世も出陣して腰の引けた諸侯を鼓舞しよう」


第三王子と宰相の地位についた側近の会話。

国境周辺の貴族達は渋々兵を出した、不自然にならない程度に。士気は低く、周辺農村での物資徴発も遅々として進まない。住民は全て非協力的なのだ。


王国民はエルフの国から嫁いできた美姫が王太子や第二王子に手をかけたという第三王子の公告を微塵も信じていない。これはまた国境周辺に領地を持つ貴族達、つまり中央の権力闘争とは無縁の者達も同様である。




 

一方、エルフ王国の王城。

ユウコワの見立ては大きく外れていた。彼女の父親ルケンは国内でもタカ派筆頭の大臣。溺愛する娘を差し出す羽目になった状況が彼を突き動かした。


またユウコワに想いを寄せていた軍の総指揮を執り行う立場の青年がルケンと共に、戦争被害の大きかった国境周辺の村長達に粘り強い説得を続け『バストリア討つべし』の気運を高め、王へ働きかける。


実は王城内に厭戦ムードはあったが、取り巻く周囲ーー特に軍部ーーは必ずしもそうではなかったのである。体系化が遅れていた魔法戦術の運用を進めつつ、様々な演習を繰り返していた。


この辺りの事情をユウコワが知らなかったのも無理はない。彼女はエルフ王の護衛。所属は王城。軍とは関係が薄いのである。

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