どうやら乙女ゲームの攻略対象に転生したようです
東雲晴日
プロローグ
第1話
「ミルドレッド・カーマイケル、この場にて貴様との婚約を破棄する!!」
金髪碧眼の整った容姿の男が手を開き前に突き出して、高らかに宣言した。
王族らしく着飾った装いは、金糸の装飾に宝石が散りばめられて鬱陶しいほど周囲の光を反射している。
その男、ユリウス・バートランドはこの国の王太子である。
彼の傍らに立つのは、ストロベリーブロンドの髪を短く下ろし、瞳の色と同じライトグリーンのプリンセスドレスを着た小柄な少女。
小さな花が散りばめられ、フリルがあしらわれたそのドレスは庇護欲をそそる可愛らしい見た目を引き立てる。
挿し色として、サファイアブルーのリボン、オレンジ色のブローチ、ビリジアンのネックレス。
本来なら挿し色はエスコートする男性の瞳の色、または髪の色のどちらか一色を入れるのだが、彼女をエスコートするのは王太子だけではない。
王太子の後ろに控える令息、王太子側近候補の二人もまた彼女のエスコート役なのである。
一人の女に複数の男が群がるという、真っ当な者から見れば有り得ない光景。そして王太子から発せられた一言に周囲はざわついた。
対局に立つのは、美しいプラチナブロンドにマリンブルーの瞳を持つ大人びた少女。
貴族らしく微笑を浮かべ、サファイアブルーの扇を口元に添えている。
金糸で薔薇模様の刺繍が施された深い青色のAラインドレスが、すらりと背の高い彼女の体のラインを強調する。
本来ならば彼女が王太子の隣に立つはずだった。
ミルドレッド・カーマイケル。王太子の婚約者である。
扇のサファイアブルーは王太子の瞳に合わせた色。最後まで婚約者たろうとする彼女の強い意志が感じられる。
周りのざわめきを無視し、王太子は毅然としてミルドレッドの悪事を上げ連ねる。
「エリカ嬢をわざと転ばせたり人前で罵ったり、挙げ句の果てには事実無根の罪をでっち上げるなど言語道断!
貴様がエリカ嬢に行った陰湿な嫌がらせ行為の数々、今まで目を瞑ってきたが婚約者失格だ!よってミルドレッド・カーマイケルとの婚約は破棄し、私は新たにエリカ・ノートンを婚約者に据える!!」
対するカーマイケル公爵令嬢は微動だにしない。しばらく微笑を浮かべたままいると、群衆の中の一人と目配せした。
視線を目の前の金髪碧眼の男に戻すと扇を閉じ、これはもういらないとばかりに床に叩きつける。
穏やかな微笑を湛えているが目元は笑っていないことは、正面に立つ王太子と、彼を奪った張本人にははっきりと分かった。
「謹んでお受け致しましょう。ですが殿下、くれぐれも、その選択を後悔なさらぬよう」
彼女は元婚約者に向かって礼をするが、王族にするそれではなかった。
言いたいことは言い終えたとばかりに彼女が踵を返すと、わらわらと集まっていた貴族たちが左右に別れて道を作る。
その道の向こうに佇むのは、彼女より明るい銀髪に翡翠の瞳を持つ男。細身で高身長のその男は短めの髪をオールバックにしてまとめていた。
その男に向かって、彼女は先程よりも幾分か柔らかく微笑む。
「お義兄様」
彼もまた、王太子の側近候補、宰相の息子だった。
「気が早いぞ」
そう言いつつも嬉しさを隠せないといった様子で表情を和らげる。
お兄様と呼ばれた男と彼女を交互に見て混乱している貴族たちを他所に、その男は言う。
「では婚約破棄と、新たな婚約の手続きをしに行こう」
その言葉を告げた彼に、再び集団は騒然となった。言うはずだった台詞を奪われた
ミルドレッドがすっと差し出された手を取り、二人は会場を後にした。
※見やすいように改行しました。あと少し修正を加えました。2024/8/24 21:42
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます