第4話オカルト部

妖花は部活動のために、校舎を歩いていた。


私の通う中学校は県内でもそこそこ大きい中学校で生徒数はそこまで多くはないが、校舎が大きく、設備も充実している。

そのためなのか教室が余っており、殆どの部活が部室を持っているという良環境である。

それもあってかよくわからない部活も存在しているという。それが妖花の通う中学校だ。

そしてそのよくわからない部活というのが妖花の所属しているオカルト部なのだ。


まぁ自身が所属する部活をよく分からない部活の称してしまうのはどうかと思うが。

そんなオカルト部の部員数はこのような形。


所属している人数は6名。男子2人女子4人で1年が0人、2年が3人、3年が3人の構成。

私たちは日夜様々なオカルトや怖い話などを集めてはこの部室で話をしている。

2年生になったばかりではあるが一年生の新入部員は誰1人入ってくれてはいない。

早く後輩が欲しいなと思う妖花であった。


「こんにちわーー!!!!」


「失礼します」


部室のドアを開き、大きな声で挨拶をする夏海と対照的に妖花はきちんとした挨拶を部員にしていた。

中に入ると部員はもう集まっていた。部長の他に3人の生徒がパイプ椅子に腰掛けている。4人は長方形の長い机に2人ずつで座っており、その隣には私たちが座る用のパイプ椅子が配置されていた。


「ギリギリだったな、2人とも。」


そう話しかけてきたのは部長である識紙李王しきがみりおうだった。


「すみません、部長。」


「いや、いいんだよ。時間には間に合っているからね。それより2人とも扉の前に立っていないで座りたまえ。」


そう2人に声をかけた識紙は笑顔で2人に座るように伝えた。



この部活の部長である識紙李王は黒髪で耳に髪の毛がかかるかかからないかぐらいの髪の毛に力強い目つきをしている生徒だ。

部長は真面目でルールや秩序を完璧に守るような人間。そんな部長のことは部員含め、先生や他の生徒からも慕われており、妖花も識紙を信頼している。そして、この学校の生徒会長を務めている。妖花より1つ年上の中学3年生の生徒だ。


「では失礼しますね」


「妖花はこっちに座ってー」


先に座った夏海に言われて妖花は空いていた椅子に腰掛けた。


「それでは始めようか」


識紙の言葉で6人は一斉に識紙の方へと向いた。


「みんな目を瞑って。」


識紙が部員が席に着いたことを確認してからそう告げた。

その合図で皆目を瞑った。最後に残った識紙は部員が目を瞑っているのかを確認したあと、2人に目を向けると、一度頷いたのち目を瞑った。


妖花と夏海は目を瞑り数秒間沈黙が流れる。この目をつむるということは黙祷なのかどうかよくわからないが、部長曰く、この部活を作った人がずっとやってきたそうだ。意味を聞いたところ、オカルトなどの話をする場合、除霊の意味や結界を張ると言う意味で黙祷をするらしいと教えられた。


まぁ、それくらいならいいだろうと妖花はあまり深くは考えていない。変な宗教とかではなく、中学生の"遊び"の中で行うもの。


「よし!皆目を開けて!」


その合図で目を開けると皆部長の方へと向いている。


「ではでは、明日からゴールデンウイークということなので集まるのも今日が終われば次はゴールデンウイーク明けです。というわけで楽しもうじゃないか、今日も。」


部長からの話が終わると本題である怖い話、不思議な話を話す時間がやってくる。


「それでは誰から話すことにする?」


部長からの問いにすぐに反応したのは新道亜美だった。


「私からでもいいですか?」


透き通った声が特徴の1つ年上の先輩である新道亜美が手を挙げた。綺麗に手を挙げた新道に部員の視線が集まる。


「えっ、いいですか?私からでもいいですか?本当に良いのですか?」


新道亜美は心配症なのか何度も部員たちに自分が発表しても良いかを問いただしていた。


そんな心配症の少女、新道亜美しんどうあみは妖花たちよりも1つ年上の3年生でオカルト部の副部長を務めている。清楚なお姉さんと言った感じの彼女は本当の姉のように優しく接してくれるいい先輩である。


「あぁ、新道。君から話してくれ」


部長の言葉で新道亜美は鞄をごそごそと探り、きちんとファイリングされている紙を取り出し、机の上に置いた。どうやら原稿用紙があるらしい。そこにはびっしりと文字が書かれておりその文字がとても小さく書いており、私の目にはよく見えなかった。


「では、始めます。」


その言葉で皆すぐに静かになり話を聞く体制に入る。

それを待ってから新道は話を始めた。


「あの、皆さんは妖怪って信じてますか?これは、私の友達が体験した話です。その子は妖怪というものに会ったことがあるので、その時の話を話しますね。」


皆はその話に聞き耳を立てていた。


「これは、つい最近の話です………。


ある日、ユラさんという女の子がいました。その子は買い物に出かけていました。親に頼まれて買い物袋を手に持って歩いてお店に向かっていたそうです。

重いなーなんて言いながら。

歩いていたのはいつもの道でその子もよく知っている道。その日、家を出たのはお昼すぎで人も疎ら。

お店で買い物を済ませてからの帰り道、そこで彼女は異様な光景を目にしてしまったんです。

異様な光景と言っても、目に映りこんだのは人型の何か。

よく見てみると見た目は天狗だったそうです。

まだ横顔だけでしたが鼻が長く、服装はお坊さんとかそういう人が着てるような服。そして、杖のようなものを持って佇んでいた。

だからと言ってそれが天狗なのかと言われれば、疑問がある。でも、とにかく天狗のような見た目をしていたそうです。

その子は何をしているのかなと見ていると、たまたま目があってしまったそうで、すぐに逃げました。なぜ逃げたのか、それはこちらを向いた天狗には血が顔中についていたからです。驚いて、転んでしまったその子は足元に目を向けて叫び声を上げました。そこには人の形をした何か、その友達は肉の塊だったと言っていました。それは、人間の肉塊。

彼女は買い物袋を投げ捨てて必死に走りました。

後ろを見ると先ほどの天狗が追いかけてきたそうです。悪魔のような形相をして。

彼女は走りました。殺される、殺されるそう思いながら。そして走って、走って、なんとか逃げ切ったそうです」


新道の話を聞いて、妖花はうなづいていた。天狗に追いかけられるなんて怖い。だけど、怖がりながらも、その話を聞き入ってしまう。でも、先程の話に違和感を感じた。


皆もその話を真剣に聞いていた。


「わー!こわーい!!」


夏海は悲鳴をあげると、部長から注意受け、しゅんとする。皆が静かになったところでまた話の続きを始めた。


「そして逃げ切った、そう思っていたのは彼女だけでした。

後ろを見ても、何もいなかった、だから彼女はこれが夢だと思ったのです。なぜならそんなことが実際起こるはずがないと。非日常なんてものは存在しないと腹を括っていました

しかし、深呼吸をしながら落ち着こうとも思いました。悪い悪夢だ。早く起きないかなと。

腕を伸ばして背筋をピンとしようとした時でした。

体が動きません。上を向こうとするも、首が思うように動かず、身動きが取れなくなったそうです。


何故だろう、彼女は疑問に思いました。

そして段々と目線が上に上がっていったそうです。まるで空を飛んでいるかのように。

だから彼女は夢を見たのだと、確信していました。ですが、少し空を浮遊したのち、急に速度を上げて落下したそうです。落ちたのですが、夢だったので、痛みはなく、無事に着地できたそうだったのですが、落ちた場所にたまたま鏡があったそうです。

なので、鏡を見たところ、彼女は驚愕したそうです。


なぜか?それは自分の頭だけが、鏡に映っていたからです。


頭部のみ、体はなく、引きちぎられた跡のある自分の頭部だけがころりと鏡の前に落ちていたそうです。

頭からは血がドロドロと垂れており、鏡を見た瞬間激しい痛みが襲い、とても苦しんだそうです。訳が分からず、痛みは耐えられるものではなく、叫ぼうと思っても、声が出せず、ただただ痛みが襲ってくるのみ。


こんなのは夢だ、夢だ、夢だ、そう願っていました。


しかし、夢ではありませんでした。

彼女の意識は段々と遠のいて、そして、空からまた何かが羽ばたく音が聞こえたのち、彼女の意識はなくなりました。

その後、彼女は行方不明でまだ捜索が続いているそうです。はい、私の話は終わりです。」


亜美先輩の話は終わり、少しだけ静寂が流れた。

それは時計の音だけが聞こえるほどの静かさだった。

ただ、妖花はその話の矛盾に気がついていた。


「こっわー!!!!」


夏海が大声で叫び、机にうづくまってしまった。

他の部員もその声に驚いた様子だった。どちらにせよ、話の内容に驚いて欲しかった新道だったが夏海のリアクションを見てふふっと笑った。


「急に大声出さないでよ、びっくりした…」


妖花は心臓を抑えながら夏海を見ると「あぁ、ごめんごめん」と謝罪をしてもらったところで先ほどの話のことについてを話を始めた。


「確かに天狗は大きく強いイメージあるけどそんなことをするんだね…」


「まぁ、2人とも。とりあえず新道に向けて拍手を」


部長の一言で皆新道に向けて拍手をする。

少し照れながら新道はお辞儀をした。


「ありがとうね、私の話どうだったかなー?」


気になる様子で皆を見つめる新道に対して、部長が感想を求める。


「では、皆感想を!」


感想を言うのはこの部活の決まりで、話をした方に感謝を送ると言う意味で行っている。

部長からの言葉で皆が1人ずつ感想を新道に向けて言う準備をしていた。

そんな中はじめに口を開いたのは同い年であるが、違うクラスの阿羅型煙羅あらかたえんらだった。


「まるで本当にあったかのような喋り方、さすが新道先輩です!」


阿羅型は不思議な性格をしていると私は思っている。その話し方や立ち振る舞いから何かただならぬものを感じてしまうのだ。人によって態度が変わりすぎる。

それが彼、阿羅型煙羅だ。オールバックの髪の毛の彼は暑い性格というわけでもなければ冷たい性格でもない。影は薄くも濃くもない。

彼はいわばとても温度差が激しいのだ。時に暑くなり、寒くなり、薄くなり、濃くなる。

私は別に何か特別彼に対して思うことがあるわけではないものの1年生の時は同じクラスだったということもあり、阿羅型とは思いのほか仲がいいと思っている。


阿羅型は様々な人と話す、話したことのある人ない人関係なし。私ならそこまでできない。特に仲のいい友達もいなければ悪い友達もいない。それが彼のいいところでもあり、悪いところでもある。

だからなのか阿羅型の周りにはあまり人が集まらない。みんなも好きでも嫌いでもない、どうでも良い存在と思っているのだろうかと女子目線の妖花は思ってしまう。

ただ、人が集まらないと言っても誰かしらが毎回阿羅型の側にはいる。

話すわけでも、聞くわけでもない、ただいるだけ。一人にされるのが嫌なのか分からないが、阿羅型は孤独を恐れているのかもしれない。


彼の過去も人生も私は聞いたことはないし、これからも聞くつもりはない。

ただ、阿羅型という人間はそういう人間なんだと伝えたかった、それだけ。


そんな阿羅型は感想を伝えてキラキラした目で新道を見つめている。


「いえいえ、ありがとう阿羅型くん。私今回の話は自信あったんだよ」


片目でウインクをする新道は先ほど言った通り自信に満ちた顔をなっている。いつもなら心配そうな顔でみんなを見つめているのだが、上手く話すことが出来たことで機嫌がいいのだろう。


「今回の話は特に良かったです!新道先輩みたいな話し上手になりたいですよ!」


「そんなことないよ、私はたまたま見つけた話をしただけだから。」


「よし、とりあえず阿羅型に拍手を」


阿羅型に向けて拍手をした。


「じゃあ阿羅型から時計回りだからつぎは俺だな」


拍手をした後部長からの提案により感想を言う順番は時計回りとなり、皆部長の方へ顔を向ける。


「新道は本当に毎回とんでもない話をもってくるからすごいと思っている。今回の話は天狗の話だったが、皆天狗に種類があるのを知っているか?」


天狗の種類?天狗の種類ってなんだろう、そう妖花が思っていると、軽い口調の声が聞こえる。


「うち、知ってるけど」


そう声を上げたのは2年生の伊家波臨美だった。伊家波臨美いけなみのぞみはギャルのようにチャラついた格好をしている生徒だ。

今日もギャルらしくネイルなどをしている。そんな彼女はとても後輩思いの良い先輩であると言うことを私は知っている。そしてとても伊家波先輩を尊敬している。

それに彼女が誘ってくれたからこそ私は今この部活に所属しているのだ。誰にでも話しかけてくれる優しい先輩は私の大事な部活仲間だ。


「うち、知ってます。それ。」


もう一度手を上げながら声を出した伊家波の方に視線が注がれた。


「ほぉ、さすが伊家波。ではどんな種類があるのだ?」


部長も伊家波のことを一目置いているのだろう。部長は自分よりもすごい人間には目がない。それはこの部員皆がそうだからだ。部長は皆を認め、尊敬している。それが部長のいいところなのだ。


伊家波は自分に視線が集まったことを確認してから話し始めた。


「まぁ種類は諸説ありますけど大体は3種類いるらしくて、大天狗、鳥天狗、木の葉天狗がいるわけ。この中で最も強いのが大天狗、次に鳥天狗、最下位に木の葉天狗っていう感じっしょ?」


「流石の一言だ。その通り、天狗にはその3種類が存在するらしい。他にも種類があるらしいが大きく分ければこのぐらいだろう。今回の新道が話したのは多分大天狗か鳥天狗だと思われるな。」


「何故ですか?」


妖花は部長に疑問をぶつけた。


「それはな、大天狗と鳥天狗は全く違う見た目をしているらしいが私達が知っている天狗の姿をしていると呼ばれている。大天狗は鼻が長く、鳥天狗は口の部分がカラスの嘴になっているそうだ。どちらも人のような見た目ではあるんだがな。

この話では天狗という表現だけだったのでわかったのはそこぐらいか。木の葉天狗というのはいわば大きな鳥と思ってくれたらいい。あまり妖怪を知らない人が天狗といったなら大天狗か鳥天狗だろうというのが私の考えだ。」


「そうなんですか。勉強になります。天狗にも種類があったなんて知らなかったです。」


部長が私の疑問に答えてくれたところで、伊家波が口を開く。


「知らないのも無理ないってー、うちも最近知ったばっかだし、大天狗は日本の大魔王と呼ばれるほど強い力を持つ妖怪だったらしいよー。」


「そんな強い妖怪なんだ!臨美先輩すごーい!」


夏海も私と同じようにリアクションを取っていた。先程まで怖いと言ってうづくまっていたが、この天狗の話に興味があるらしく、すぐに立ち直って話を聞いていた。


「天狗といえばやはり羽団扇。ヤツデの葉だな。別名テングノハウチワとも呼ばれる有名な葉だ。そして天狗は強力な神通力を使うとも言われている」


得意げに語る部長へ夏海は夢中なようだ。


「私も勉強が必要ですね!もっと妖怪のこと知ってたくさん怖い話したいです」


「頑張りたまえ!」


部長から応援され、夏海は強くうなづくと、次の人が感想を言っていった。

少し時間がたち、私以外の人がこの話の感想を言い終わり、感想を言うのも最後の1人。

次は私が感想を言う順番になっていた。


「では、始めてくれ。」


部長の合図で私は口を開いた。


「本当に怖かったです。本当にあったかのような話し方がまた恐怖を誘ってきます。それが新道先輩のすごいところだと私は思ってます。後一つ気になったんですけどどうやってこの話を聞いたんですか?」


私の問いに皆唖然としていた。

何人かは何をいっているんだと首を傾げていた。しかし1人この話をした新道亜美だけは私の問いにとてもびっくりした顔をしている。


「何が言いたいんだ?」


部長が私に対して訳を教えろといってきたのでそれに答える。


「いえ、なんとゆうかに聞いたのにその友達は死んでるから誰に聞いたのかわからなくてそこが気になっただけなんですけど。」


「ふむそう言うわけか…で新道、とゆうわけだがどうなんだ?」


「よ、妖花ちゃん、考えすぎよ。この話は作り話なんだからそんな友達は実在しないし、そんな疑問は持たなくていいんだよ?この部活で話されていることのほとんどが作り話やネットから持ってきた話ばかりなんだから。」


「そうですよね、すみません。私そこが気になっちゃったもので。作り話に決まってますよね、私ったら…変な質問してすみません、亜美先輩。」


私が申し訳なさそうにしていると、新道はきにしないでと肩を叩いてくれる。


「でも、確信をついてくる質問ありがとう。今度はもう少し上手く話そうかな」


「てかさ、作り話なんだからさ。そんな気にすることはないと思うぜ」


阿羅型も私のカバーに入ってくれる。


「よし、そう言う疑問を持つことはあるだろう。それを言えることは千子のいいところだと思うぞ!」


部長からも励まされ、少し和やかな雰囲気が部室に流れていた。


皆が和やかな雰囲気に包まれる中で1人ぼーっとしている人物がいた。


「どしたの、夏海?」


私が声をかけると大声で夏海は叫ぶ。


「嘘だったのー!!!私全然嘘だってわからなかったー!そんな…じゃあ天狗の種類も嘘なんですか…?」


本当によく叫ぶ子だなと思っていると伊家波先輩が口を開く。


「天狗の種類はまじよ?3種類いるのはマジだから。話が嘘ってだけよ?」


「そ、そうなんですか…とゆうか私ずっとみなさんの話が本当の出来事かと思ってました!」


その言葉で皆一斉に笑い出した。夏海の勘違いがここまでとは私も思わず、堪えていた笑いが吹き出す。


「やめてよ、夏海、ほんとに真面目なんだから。」


皆が笑っている中1人ずっと鋭い目つきで私を見つめる新道先輩に私は気づいてはいなかった。



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