第2話始まりの日
「危ないからもっと下がって!」
少女はメイド服を着た赤髪の女性に助けられた。
意識が朦朧とするなかメイド服の女性の方へと目を向ける。
赤髪が靡く女性は腰に鞘を差し、右手には鮮やかな紺色の日本刀が握られていた。
刀は怪しげな雰囲気を醸し出し、吸い込まれるように美しい。
「あなたは一体何者なんですか…」
女性は少女の問いに口を開く。
「私は"怪者払い"。貴方達の言う妖怪を倒す者のことよ」
女性は冷静に答えた。
怪者払い…怪者払いとは一体なんなんだろう…
巡る感情、これはいつかの未来なのかそれとも過去なのか。それすらも曖昧で、私の目の前に立つ女性は言う。
「あなたは私が守るから」
現実なのか夢なのかその区別すらない。この、私の物語の始まりの地点。それが今だと気づくのはもう少し先の話だ。
これはある少女の物語…過酷な人生の物語。この人生で少女は何を得るのだろうか。
表裏一体のごとく、表の存在と裏の存在。
その両方が密接に関わっていることをこのころの私はまだ知らない。
彼女の物語は静かに始まる…
………………………………………………………………
夢を見た
それが本当に夢なのか、そうでないのか、それは私にもわからない。
だが、これだけはわかる。誰かに助けられた。その記憶だけが私の脳裏に焼き付いている。
「本当になんなんだろう」
卯月
ベッドから起き上がり、カーテンを開ける。
時刻は寅の刻を指し、まだ真夜中の夜が続いている。月の光が少女の顔を照らし、窓からの風が赤暗色の髪の毛を揺らす。
窓の外の景色はいつもと変わらない街並みが広がっており、綺麗な景色に目を奪われる。
「やっぱり、ここからの景色は綺麗だなー」
私の家は高台に位置している一軒家で最近できたばかりのニュータウンに位置している。
この住宅街は山だった場所の木を切り倒してできた。だからこの今住んでいる家はかつて山が見ていた景色なのだと思う。
そんな街を一望できるこの家が私はとても好きだ。
「今日もまた起きてしまった」
私、
これは何かが起こる予兆なのか、そういうわけではないのか、それは私にはわからない。
ただ、1つ疑問に思うことがあるのだ。
「やっぱり下を向けない、いや向いてはならない。そんな気がしてならない」
私はこの夜景を眺めてはいるが一度も真下にある道路には目を向けない。無意識にまっすぐを見つめてしまう。これは私の危機管理能力が働いているだろうかそれとも何か霊的な存在のせいなのかそれはわからない。
好奇心で下を見ようとすると体が拒絶するかのように動けなくなる。
それでも無理に動こうとすると睡魔が襲う。そして次に目を覚ますのはいつも朝の時計の目覚ましの音。
「なぜ夜の時間だけ見れないのだろう…」
好奇心は抑えられない、私はまだこれでも14歳の中学生なのだから。
だからといって下を向いては睡魔が襲う。しかし今日は、今日こそは下に何があるのかそれを確かめなくてはならない。
「今日も変わらず綺麗な街、一生見てられる。いつ向こうかな…」
何が起こるかわからない期待と不安の中、私は静かに窓の前で佇んでいる。
空には無数の星が散りばめられその星々が夜の街を照らし、そして街が綺麗な輝きに満ちている。
「もう数週間立ってるんだもんね…」
この現象は一体なんなのか。いつ終わるのか、それは分かるわけがなかった。
自分がなぜこんな現状に陥っているのかさえ意味がわからない。友達に相談しようとは考えなかった。こんなことを言っても笑われておわりだろうから。だからこそ自分で解決したいと思っている。
そしてもう一つとっても気になることがある。
「はぁ…お肌荒れちゃうなぁ…」
中学生。やはりそういうことに敏感なのは仕方ない。いつもいつもこの時間に起きていては肌に悪い。それに成長に関わる。
妖花は暗い部屋で窓から差し込む光に照らされた自分の身体を見つめてため息を吐いた。
「私、ほんとに成長してない気がする」
自らの身体を見つめて思う。友達や街の人を見ているといつも思ってしまう。自分のスタイルはあまり良くないと。
あまり太っているとは思っていないしむしろ痩せている方ではある。
身長は普通ではあるものの足は長くはないし、顔が小さいわけでもない。
ふと頭の中に浮かぶあったことない女性の姿。
メイド服に…、とても大人びた顔立ちに…、何より脚も長くて、スタイルがとても良いモデルのような体格のあの人。
何の記憶なのかと首を傾げる。誰なのだろう、何か言っていたような気もする。でも、モヤがかかったように顔も姿も思い出せなくなってくる。
何を言っていたのか、口だけが動くだけで何を言っているのか聞き取れない。
『────払い』
何とか払いと言っていたような気がする。
そして、ほんの少しの間にその記憶のことを忘れてしまう。
「あれ…。なんだっけ、何を考えていたんだっけ…まぁいいか」
忘れ去られた記憶のことを思い出す努力すらしない。その記憶が脳をよぎったことすらも忘れてしまった。その間の時間はほんの数分。
先ほど時間がなかったように妖花の話は元に戻る。
星空を見つめていた。
「私も高校生になる頃には絶対もっと成長してみせる!まぁ、周りがすごすぎるだけなんだけど…」
自分の周りの友達はとてもスタイルも良く、可愛い人ばかりなのだ。
いつも憧れている、あの子たちはどうやってあそこまで可愛くなれるのだろうかと。
嫉妬してしまうほど可愛い友達はこんな時間には起きていないだろう。
早く寝ようとは思っている。しかしこのままでは寝られない。今の状況をどうにかしなくては寝るに寝られない。自分が置かれている不思議な状況をどうにかしなくては。
不思議と言ってもただ同じ時刻に起きると言うだけなのだからどうにかするとかそういうことではないということを何となく私は理解している。
「この、午前四時に起きてしまうこの状況と窓の下を見れない現象。何かの予兆なのかな」
しかし、そんな噂話などは聞いたことがなかった。オカルト的な話は沢山聞いてきたが、今起きていることに関するような話もなかった気がする。
「まずは下に何があるのか、これを確かめなくてはならない!で、でも…」
強い決心をしたものの、やはりぐらついてしまうのが私だ。
もしかしたら霊的な何かがいるかもしれない、それはそれで面白い体験ではあるが実際に起きてしまったらとても怖い。
「また明日にしよう」
また明日に、そう決めた。もしかしたら明日はふつうに起きられるかもしれない。
そんな薄い期待をしつつ、今夜はこのまま夜明けを待とうと思った。
携帯を手に取り、誰かからメールが来ていないのかを確認した後携帯を置き、また外の景色を見ていた。そんなことを繰り返しながら時間の経過を待った。
このまま夜明けを待てば何か情報を得られるかもしれない、そう期待しつつ欠伸をかきながら窓の外に目を向ける。
まだ真夜中、この時間帯になると殆どの家は寝静まり車の通る音しか聞こえない。
そんな中ではあったものの思いの外、退屈しなかった。
気づいた頃にはもうそろそろ時計の針が5時に差し掛かる時間になっていた。
「5時か…あと少しで夜が明ける。」
まだ4月ということもあり日の出はだいたい5時頃。
「あっ、夜が明ける…」
夜の闇に太陽の光が差し込んだ直後だった。
「なんだろうあれは」
光に照らされていく町の中に一つ、黒い何かがあった。
普通は特に何とも思わないのだがそれはあまりにも不自然でその黒い何かを光が避けているようにも感じた。
「んー、見間違えかな?」
目を擦ってもう一度見ようとしたときには黒い人影のようにも見えたそれはもう姿を消していた。
「何だったんだろう、未確認生物?な訳ないか…」
そう言った直後急に睡魔が襲う。
「うぅ、き、急に眠気がすごい…」
そうして私はカーテンを閉めてベッドに倒れこむように潜む。何かに吸い込まれるような眠気は妖花に襲いかかる。
あと少しだったのに。
そんなことを思いつつ今日も何も情報を得られずに終わってしまった。
「あと少しだったのに…」
妖花は夢の中へと引きずりこまれた。
ピピピピピ、ピピピピピ、ピピピピピ
目覚ましの音が聞こえる。
ピピピピピ、ピピピピピ、ピピピピピ
「んっ…目覚ましどこぉ…」
目を開けるのが面倒で手を適当につき目覚ましを手探りで探していく。
「んー?どこだろう…」
片手ではは足りなかったため、両手を使って手探りで探していく。その間も目覚ましの音がなり止むことはない。
ピピピピピ、ピピピピピ、ピピピピピ
「んー?これかな…」
やっとのことで目覚ましを手にとり、目覚ましを止める。
目覚ましを見るとちょうど7時半。
2時間睡眠は流石に辛い。
そう思いながらベッドから起き上がり、大きな欠伸をかいてしまう。
「流石に眠いなぁ…」
ベットから立ち上がった時、つい眠気で立ちくらみを起こしてしまった。
「あっ」
私はバランスを崩し、床へ倒れ込んだ。
「うぅ、痛い…」
床に手をついたとき変な体勢で手をついたため少し手が痛む。
「立ちくらみかな…、手の方は痛いけど大丈夫かな?」
痛みはするもののそこまで気になる程でもないため気にせず蹴伸びをした後カーテンを開けると窓から太陽の光が差込み、部屋中を照らし、朝を実感させてくれる。
「もう、朝か…結局寝ちゃったんだ私。」
昨日のことははっきりとは覚えていない。
これはいつものことだ、いつも断片的に昨日の記憶が残っている。
昨日はずっと起きていたような…
いや、ベッドから目を覚ましたということはやはりまた眠ってしまったのか。
「でも、まずは…」
目を覚ましたあとやることは一つ、それを呟いてみる。
「学校へ行く準備しよう」
そう言ってまず、窓を開け美味しい空気を思いっきり吸い込み、吐く。冬の寒さが抜けきっていないのかまだほんのり肌寒い。
四月も下旬を迎えていたものの暖かい春の風はまだ吹いてはこなかった。
髪を揺らしながら風を感じているとふとあることを思い出す。
「下見れるかな?昨日は見れなかったけどどうだろう」
昨日のことは断片的にしか覚えていないが、このことだけは覚えていた。いつも下を向けないのはなぜか。
それを確かめるために下の道路を覗き込もうとするも、少しだけ躊躇してしまう。
そして深呼吸をして意を決して下を覗き込む。
「何にもないや、やっぱり何かあるわけでもないのかも。」
やはり何もなかった。いつも通り、朝から車が道路を走っている。
何故なのだろう、朝は下を向けるのにあの時だけは下を向いてはいけない、その感覚だけがあるのだ。
「あんまり気にしても仕方ないのかも、うぅ、それよりも寒い。窓を早く閉めよう。」
そう言って窓を閉めると、母親の声がしたから聞こえてくる。
「おーい妖花ー、ご飯できたわよー。」
その声に反応してパジャマから制服に着替える。
中学校の規定の制服を着て鏡の前で変なところがあるかどうかをたしかめる。
藍色の制服には赤色のリボンが真ん中についており、なんとも可愛らしい制服をしている。
「よし、あとは髪をとかたらいいだけかな。」
着替えが終わると、荷物を持って下の階へと降りていく。
洗面所で髪を溶かしたあと顔を洗うことを忘れていたことに気づき慌てて洗ったあともう一度鏡を見返す。
「よーし!いい感じかな?」
フンと少しにやけながら完璧だと確認して妖花はリビングへと向かう。リビングのドアを開けると母親が朝食を準備して待っていてくれた。
「おはよー、それじゃいただきます。」
母親と挨拶を交わした後手を合わせて食事前の挨拶を終えると朝食を口にする。
「美味しい」
今日の朝ごはんはパンに目玉焼き、スープといった献立だった。
「それは良かったわ、妖花、明日は何か予定あるの?」
明日は…そういうことか。
「うん、一応」
「そう、行くならちゃんと言ってね。最近ここら辺で変な事件が多いから」
「うん、わかってるよ」
ここ最近は学校の近くでよく家を半壊させられたりする事件がよく起こっている。
手がかりは何もなく警察も手を焼いているらしい。
まぁそんなことを今テレビのニュースでしていただけだ。
そんなことよりも明日はそう、ゴールデンウィークが始まろうとしている。
4月に中学2年生になったばかりの私の久しぶりの長い休日。
私としてもこの長い休みは何か予定を立てなくてはと思っていた。
「ゴールデンウィークは友達と出かけるかも。」
「そう、夏海ちゃんとなごみちゃん?」
「うん、今日誘う予定にしてるんだ。」
まだ誘えてはいないため、今日誘って遊んでくれるかは心配だが仕方がない。
「いいんじゃない、お金はその日に渡すから。」
「うん、ありがとう。」
ゴールデンウィークの予定の話が終わりまた朝食を口にしていると母親が怒ってきた。
「妖花、ちゃんと手を出して食べなさい」
そう言われて私は今日手をついた方の手を机の上に出した。
「あら、それどうしたのよ!腫れてるじゃない」
「あー、これちょっと起きた時立ちくらみで倒れた時に変な感じで手をついちゃって」
片目を瞑り、痛いような表情を取ると母親はすぐに席を立ち、冷たい氷を持ってきてくれた。
「一旦これで冷やしておいて、すぐに湿布を持ってくるから」
「あ、ありがとう」
「無理はしないようにね」
そう言って氷をどかして湿布を貼ってくれた後、また椅子に座り、朝食を食べ始めた。
「それじゃあ行ってきます」
朝食をとり終えた私は学校へと向かった。
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