第4話

風花を放課後の教室でみてから1週間が経過した土曜日、今日は駅前にある大型商業施設に買い物へ来ていた。一通り買い物を終えて、昼ごはんを食べるべく、フードコートを訪れた。

「何を食べようか」

そんなことを考えていると、フードコートの近くにあるイベントステージの方からピアノの音色が聴こえてきた。僕の周りに入りる家族ずれやお年寄り、小学生ぐらいの子供に至るまで誰もが何かに操られるようにイベントステージに対して引き寄せられた。

そこには、人だかりができており、その中心にはクラスメートである風花がピアノを弾いていた。その姿は言葉で言い表せない美しさがあった。

彼女が奏でるピアノからは一つ一つの音が何色かに色づいているように聞こえ、その音が混ざり合い一つの絵画のような音楽が完成しているようだった。

彼女の演奏に集中するあまり、時間の流れを感じることを忘れてしまっていたが、盛大な拍手と共に僕は演奏が終わったのだと理解することができた。

彼女は、ピアノのそばで観客に向け一礼し、舞台の裏に消えていった。それでもなお、観客たちは彼女の演奏の余韻に浸り続けていた。


「すごいものを見たな」

僕は改めて彼女の演奏を聴きそんな感想を抱いた。

その後、僕は予定していたものをすべて買い終え帰路に就こうとし、外の駐車場を歩いていた時、黒塗りの高級車の前で風花とそれに似た女性を見かけた。


「あんな演奏をして恥ずかしいと思いなさい」

「はい、ママ、次の演奏はしっかりできるようにします」

「次って、与えられたチャンスは有限なの、だから、一つ一つのステージを完璧な状態で演奏しなきゃいけないって言ってるでしょ」

風花に似た女性はそうヒステリックに言い放つ

「ごめんなさい、ママ」

「あなたは、周りから人一倍期待されてるの、だから、それに応えなきゃダメ。わかってる?」

「はい、、、」

「あなたは今日の演奏についてもう一度考えなさい。それと、バツとしてここから歩いて帰りなさい」

そういうと、車に乗り込み風花をおいて立ち去ってしまった。




風花は車が走り出した後、駐車場にうずくまり泣き出した。

「そんなこと言ったって、私は人一倍一生懸命やってるのに」

彼女はそうつぶやきながらちらりと顔を上げた

「何見てるのよ」

彼女は敵意を持って僕にそういう

「いや、、、、」

僕は何と返せばいいかわからず黙り込む

「私ね、いろいろな人に期待されているの。」

彼女は涙を拭きながら僕にそうつぶやく

「はじめはね、それが心地よかったの、でもね、みんなが求めるものはどんどん高くなって、私頑張ってるんだけど、もうどうすればいいか」


彼女が抱えているプレッシャーは相当なもので中学生の小さな背中ではとても支え切れないものだったのだろう。


「なんだかわかるよ、僕の母親は僕がいい高校に行くことを望んでるらしくて、僕は自分の学力にあったところで十分なのに。だから、僕の成績が少しでも悪かったらすぐに怒鳴りつけるんだ。だから、君の背負ってるものにしたらちっぽけなものだけど、君の気持わかるよ」


ようやく、彼女が前々から悲しそうな顔をしてつぶやいていたことの意味が分かった。だから、僕は彼女にこうい言ったんだ。


「ねえ、僕と一緒にここからぬけだそう」

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