すべてを捨てたその先で

第1話

「ねえ、私をここから連れ出して」

キミはいつも僕のことを優しい瞳で見つめながらそうつぶやく

中学３年の夏は人生における一つの大きな山場だと担任の山崎は僕と母親に熱心にそう語る。

「今年の夏の頑張りで君の人生は決まるんだ、しっかりと勉学に励まなければ後藤君の人生は散々なものになる」

今日は夏休みにおける三者面談、今年受験のため面倒ではあるが山崎の言葉に耳を

傾ける。

「先生、仁の今の学力だとどのぐらいの高校に受験可能ですか」

母親は今日もっとも担任に対して聞きたかったであろうことを尋ねる

「山丘高校か少し頑張れば青雲高校あたりでしょう。」

山丘高校と青雲高校はいわゆる偏差値50ぐらいのどこにでもある普通科の高校で、成績、顔、運動能力すべてを顧みても普通な僕にとってはちょうどいい高校である。

「もう少し上の高校はどうなんですか」

「今の状態では厳しいでしょう、ただこれからの頑張り次第では進学校の部類に入る高校にへの進学も無理ではないでしょう」

担任と母親の会話が永遠と進む、僕の進学先の話のはずなのに僕を置いてきぼりにして。僕にとって、高校は底辺のところでなければどこでもいいのだ、ただ、就活の際に使う履歴書に高卒と書ければそれだけで。それなのに、母親は僕が名門校に入っていい大学に行くのを願っているようだ。ほんとに、自分の進路くらい自分で決めさせてほしいものだ。

「では、夏休み明けの模擬試験に向けて勉強に励んでください」

後藤はそう僕に言う

「先生、二学期も仁のことよろしくお願いします」

母親がそう挨拶をし、僕たちは教室を出た

「しっかり、勉強してちゃんとした高校に行ってもらわないと困るから、がんばりなさいよ。」

母親は僕にいつも高いレベルを求める、本当にうんざりだ

階段を下りて玄関に母親と共に向かう。

「やっと終わった、これで帰れる」

僕は心の中でそうつぶやきながら、家に帰ったら帰ったで今度は父親も加えて僕に何か言ってくるのではないかと不安になりながら階段を下りる。

その時、真っ白な肌を持ち、すべてを飲み込むような黒い髪を持っていて、この世のものとは思えないような美しさを持つ彼女と出会ったのは。

一瞬時が止まったように感じた、そうその時僕の心は彼女に奪われてしまったのだ

家に帰り、両親からの今日の面談の話を永遠とされているときも僕の頭の中は彼女のことでいっぱいだった。今すぐにでも彼女のことを詳しく知りたい、そんな思いが僕を掻き立て続けた。

僕は、夜の22時頃両親から解放されすぐさま、snsアプリで友人たちにそのような少女の情報はないかと聞いて回った。だが、手掛かりは見つからなかった。

「彼女は誰か」

そんな思いがぼくの頭から離れず僕は悶々とした思いを抱えながら彼女を探すために毎日開館している図書室に行くという名目で学校に足しげく通いつづけた。

二学期の始業式前日僕は毎日の日課となっている彼女の散策を行っていた。

「やっぱり、授業がなきゃ彼女は学校に来ないか」

ただ、不思議なことはこの中規模で一学年150人規模の学校に2年半通っているのにも関わらず、彼女を目にしたのはあの瞬間が初めてだったということである。

しばらく、校内を散策した後、僕は音楽室の方からピアノの音色が聴こえてくるのに気付いた。僕は、無意識のままその音色に引き寄せられながら音楽室の扉を開いた。そこには、長年使われたことで古びて、少し音程のずれたピアノを奏でているあの少女がいた。僕は、また彼女に目を奪われてしまい立ち尽くし続けた。そう、ピアノの演奏が終わっていることに気付かないほどに。

「ねえ、君はだあれ」

彼女はレモネードのように甘くそして少し酸っぱいさわやかな声で僕にささやきかける。

「ああ、、、、」

僕の頭の中は何を話していいかパニックになった状態で声にもならないような意味のないことをつぶやく

「ねえ、君だよ君」

「僕は、3年の山崎仁だ。」

僕はやっとの思いで君にそうつぶやく

「へ～君、私のこときちんと見えてるんだ」

僕は彼女が何を言っているのか理解できなかった。見えているも何も当たり前ではないか

僕は理解が追い付かないまま立ち尽くしている中彼女はこうつぶやくんだ

「私をここから連れ出して」