第2話 表と裏
突然舞い降りた奇跡的な声かけにより、美月の思考は停止していた。
正直嬉しい! が、あまりに突発的すぎて、現実の出来事なのかわからなくなったからだ。
「どうなの? 僕がメンバーに入ってあげるって言ってるんだ。いいのかい? 悪いのかい?」
男女の距離感ではない詰めより方に、美月はさらに困惑するが、念願が叶うので、「いいよ! 大歓迎だよ!」と彼のメンバー入りを心から喜んだ。
「じゃあ、早速私の家に……」
「ちょ、ちょっと待って!」
いち早く今後の方針を話そうと思っている美月だったが、全て話し終える前に
彼が焦っている。その表情に美月は、『?』を浮かべるが、年頃の異性間であればこれが普通である。
誰ふり構わず仲良くなれる彼女の方が異端と言ってもいいだろう。
「今日は知り合ったばかりだし、また明日にしない?」
「うん、いいよ……」
渋々了承し、気を削がれながら美月は家路についた。
日を跨ぎ、今日も学園生活が終わる。
放課後がやってきて、美月は翔兎が待つ校門前へとスキップをしながら行く。
「お待たせ! じゃあ、私の家に行こうか!」
「いいんだけど……流石に女の子の家は……」
またも『?』を浮かべるが、ここで時間を使ってしまうのは勿体無いので、「じゃあ、ファミレスにしよう」と美月は別の提案をした。
「それなら構わないよ」
翔兎の了承を得て、二人はファミレスへと向かう。
ファミレスに到着した二人は、ドリンクバーを注文。美月はパフェも頼んだ。
「でさー、翔兎君は音楽どれくらいできるの?」
「一ミリも齧った事ないけど?」
「えっ! それでバンドやろうとしたんだ。すごいね」
パフェを口に運びながら、彼の行動力の高さを褒める。
「いやー、そんな事ないよ。美月ちゃんが困ってたからさ。僕で力になれるならと思って、声をかけたんだよ。音楽やってみたかったのもあるし……」
「ありがとう! 私ね……半年は一人で活動してて……もうダメなのかなって思ってたからさ。 ぐすっ!」
涙ぐみながらこれまでの苦労を思い出す。
一年生の夏に軽音楽を設立。その後、目標の違いからメンバーとのいざこざもあり、冬に解散。
解散後は誰ひとりメンバーが集まらず、ひとり孤独に活動していたことなど。
今までの苦労が今、実ったため、彼女が想いを込み上げるのは必然だった。
「で、美月ちゃんはなんでバンドだったの? 中学ピアノコンクール最優秀賞。あの噂が本当なら、もっと違う事もできたはずなのに」
「そうだね。やっぱ、
「
「うん、私ね。去年彼らの演奏をテレビで見て、ピンっと来たの。これだって! こんな私でも誰かに何かを伝えられるかもって思って。でも……その想いの強さがみんなとバラバラになるきっかけになっちゃった」
自分の起源を話し終えた後、彼女は寂しさを浮かべる。
「なんか悪いことしちゃったな」
「ううん、そんなことないよ。それよりさ、
「うーん……いないかな? ごめんね」
「そうかー、まぁ、ここは気長に探すしかないね」
「そうだね」
この後も二人の会話も続いていき、最終的には翔兎の趣味──ゲームの話もして二人は解散した。
ファミレス滞在時間はほんの一時間ほどだった。
「おはよう!」
元気に友達の
美月とは正反対で音楽的才能に一才恵まれず、美月に誘われたが、迷惑をかけまいと断った人物の一人でもある。
「メンバー集まったみたいだね。良かったよ。私ね、美月のこと心配してたから」
「ありがとう。でもまだバンドがやれる人数集まってないからね。まだまだ先は遠いよ」
たったひとりに半年。バンドができるようになるには、どれだけの年月が必要なのかと思うと考えるだけで億劫だ。
それでも、美月は進み続ける。目標を叶えるために。
「そういえばさ。美月にとってそんなことあり得ないと思うけど……あの加わってくれた男の子と付き合ってるって噂が立ってるよ」
「えっ!」
「昨日夜道を一緒に歩いてたのを、女子生徒が見たんだって」
「あぁ、あれね。ファミレスで今後の方針を話してただけだよ。まぁ、途中から世間話に変わっちゃたけどね……」
そして放課後。
下校途中の美月と咲良は共に帰るために、廊下を歩いていた。
「美月! 今日もあの子の所に行くの?」
「うん。まあ、今日は勉強も教えて欲しいんだって」
「じゃあ、私も行くよ。男と二人なんて危ないし……それに一学年下の子が自分から話しかけてくるなんてなんか怪しいし」
「そうかな? 私はそうは思わないよ。翔兎君いい子だし。だから大丈夫……今日はバンドの件も含めてのだから、メンバー間だけで話し合いたいんだ」
「そう……」
咲良の心配を跳ね除け、二人は帰路へと着いていく。
その後ろ姿を白髪の根暗少女が見ているとも知らずに……
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