離婚するつもりだった 私が顔も知らない旦那様に愛されるまで
有沢真尋/ビーズログ文庫
プロローグ
お前に手紙だよ、と声をかけられてバーナードは顔を上げた。
「差出人はヘンリエット・アストン。
すぐに
「ヘンリエットは、母の名前です。筆まめではないので、
(結婚?
衛生兵として従軍しているバーナードは、
目の前の兵が
バーナードも立ち上がり、隊長から
紙面に目をすべらせ、そのままの姿勢で固まる。
ゆっくりと一度目を
【あなたが戦地に
何度読んでも、
五年前に父と死別した母でもなく、家に残してきた十歳下の妹でもなく、自分が。
「……なんでだ?」
その間、一度も実家に帰っていない。
妻になったという、チェリー・ワイルダーなる女性には、まったく心当たりがない。
名前を聞いたのも、これが初めてだ。
(どこの誰だ? なんで俺と結婚したんだ?)
「バーナード、メシはちゃんと食ってるのか? お前は、この死地において我が隊の
バーナードは、便箋をたたみながら
視線の先には、
「今日はまた、ずいぶん
青年の名前は、コンラッド・アーノルド。本人によると
バーナードが戦地に来てすぐの
以来、ずっと
「そこは適材適所って
明るく笑いながら、コンラッドはバーナードの背を叩いた。
すぐに、その表情が
「アストン
バーナードは、ちらっとコンラッドを横目で見た。
「俺が借金するような生活を送っていないのは、お前が一番知っているだろう。ここは戦場だぞ。これは、母からの手紙だ」
「なんでそんなに、難しい顔をしているんだ。実家に残してきた、お前の
「それなら、いよいよ生活に困ったんだな、と思っておくさ。しかしいくら
コンラッドは、バーナードの頭のてっぺんから
コンラッドに目配せをした。
「お前の母親らしい、実に計算された文章だ。お前に身に覚えがないなら、相手の女性がわけありなのかもな」
周囲の注目を集めていないのをさりげなく確認しながら、バーナードは「そうだな」と短く返事をした。
(道理に合わぬことが何より
父である前子爵がまだ存命で、バーナードが
その母方の実家の
折しも、在学中に始まった
バーナードは、医療の現場に出るより前に、世間の若者同様、政府による徴兵に応じて戦地へと来たのであった。
「まだまだ戦争は終わらないだろうし、生きて帰れる保証も何もない。ここにいる限り、俺は夫としての役目を果たせない。無効にすべきだと、本人へ言っておく」
コンラッドへの宣言通り、バーナードは食事後すぐに、「妻」へ手紙をしたためた。
母が直筆で連絡をしてきた以上、そこにはバーナードがあずかり知らぬ事情があるであろう。それは、対外的には「夫」たるバーナードが、当然知っていて
手紙にあまりに的はずれなことを書けば、検閲された際に偽装結婚の
余計なことは書けない。
(伝えたいことはひとつ。どんな理由があるにせよ、誰かの都合だけで結ばれたこの関係は、すみやかに解消されるべきである。それだけだ)
解消……つまり、
【一度も会わないうちに、人妻から
だから、この結婚はなかったことにしておいた方が良いのではないか?
バーナードからの
【あなたが死ななければ良いだけでは?】
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