チャリパイ番外編~慰安旅行に行こう~

夏目 漱一郎

第1話 福引で温泉旅行を当てろ!

「ねぇ~シチロー、夏休みどこかに連れて行ってよ~~!」


森永探偵事務所もほかの企業と同じようにあとわずかで一週間程の夏季休暇に入るのだが、その休暇中特にこれといって予定のないひろき、子豚、てぃーだの三人はシチローに『どこかに連れて行け』と騒ぎ出した。


「ちょっと待て。なんでオイラがお前たちをどこかに連れていかにゃあ~ならんのだ! オイラはお前たちの保護者かっ!」


「だって最近、物価高でどこに行くにもお金がかかるのよ。とてもわよ」


「そりゃどういう意味だよっ! オイラの金ならいいのかっ!」


シチローに一喝された子豚とひろきは、二人シチローに背を向け作戦を練り始めた。しかし、人一倍ケチで有名なシチローが仕事でもないのに全員の旅行代を出すとは考えにくい。


「どうする、コブちゃん。シチローお金出してくれそうに無いけど……」


「仕事じゃないっていうのがネックね。シチローはから」


そう言って隣にいたてぃーだの方を、何かいいアイデアはないかと縋るように見つめた。


二人に助けを求められたてぃーだは、腕を組んで数秒考えを巡らせると、天井を見上げまるで独り言のように、しかしシチローにも聴こえるように呟いた。


「そういえば今、カクヨムで『毎日更新』っていうのをやっているらしいんだけど、作者が最後四日位、投稿用のネタが無いって言ってたのよね~~。じゃないかしらね~~」


「……………」


シチローはそんなてぃーだをジト目で見つめると、なかば諦めたようにぶつぶつと文句を言いながらポケットから財布を取りだした。


「えっ、シチローお金出してくれるの?」


「いや、お金は出さない」


そう言ってシチローは、財布から何やら紙の束を出してテーブルの上に置いた。


「何よこれ?」


「これは『まごころ商店街』の福引。1等はなんと、!」


「えええ~~~っ!そんなの、当たるかどうかわからないじゃないの!」


「文句言わない!当たらなかったら諦めるんだな!」


これ以上の交渉は無駄だと感じ取ったてぃーだが、ため息混じりに呟いた。


「まあ……仕方ないか……」



          *     *     *



翌日、四人は50回分の福引券を握りしめ『まごころ商店街』の抽選会場へと赴いた。


賑やかに活気づく商店街の中で、まるで戦場に赴くかのような神妙な面持ちの森永探偵事務所の4人の存在は、明らかに浮いていた……


「絶対一等当てるわよ!」


「この福引に、私たちの温泉旅行が懸かっているのよね……」


「え~と、今日のあたしの運勢はと……」


毎日数多くの買い物客で賑わう『まごころ商店街』。その福引の一等ともなれば、そう簡単には当たらない。


しかし一方で、数多くのピンチをその悪運の強さだけで乗り切ってきたチャリパイの四人。果たしてこの福引でもその運の強さは発揮出来るのだろうか?


「おじさん、50回ね!」


『必勝』のハチマキの結び目を両手で引っ張り、子豚が真剣な表情で一回目の福引抽選機のハンドルを握りしめる。


「ガンバレ~! コブちゃん~!」



          *     *     *








「……………当分わね……」


半分呆れたようにてぃーだが呟くと、シチローはまだ納得がいかない口調でそれに続いた。


「50回も回して全部タワシってど~ゆ~事だよ!」


「3等の『お米10キロ』も当たらなかったよ!」


「きっとあの中には、当たりなんて無いんだわ! インチキ福引なのよ!」


ホントはそんな事ないのだが、当たらなかった者からみればそう感じるのだろう。



「はあ……」



なまじ期待していただけに、その落胆は大きい。あえなく夢と散った温泉旅行……シチローは、肩を落としてポケットに手を突っ込み福引会場に背中を向け帰ろうとした。



「あれ?」


ズボンのポケットに突っ込んだシチローの右手に、なにか紙切れのような感触があった。いったい何だろうと思って取り出してみると、先ほどの福引券がもう一枚出てきた。


「ポケットの中にもう一枚あったよ」


シチローは、クシャクシャになった福引券を皆にみせたが、50回引いてタワシしか当たらなかった子豚からすれば『今更一回くらい引けたところで』という感覚でしかない。


「どうせ当たらないわよ……」


ね」


シチローから子豚、子豚からてぃーだへと手渡された福引券は、最後にひろきへと手渡される。


「じゃあ、あたしが引いてくる!」


子供のように無邪気に福引券を受け取るひろきを置いて、残る三人は振り向きもせずに再び歩き出そうとした、その時……




♪カラン~♪カラ~ン




『おめでとうございま~~す♪ 大当たり~~♪』


「ウソ・・・・・・」


三人が振り返ると、そこには満面の笑みを浮かべてピースサインをしたひろきの姿があった。


「でかした、ひろき!」


「ひろき、サイコ~!」


『奇跡的な大逆転』に、シチロー達の興奮度はたちまち最高潮に上がった!


「やっぱり、私もだと思ってたのよね」


「あれ、コブちゃん『当たりなんか無い』って言ってなかった? でもまあヨカッタ。これで慰安旅行に行けるわ」


さすがはチャリパイ、こんな時には抜群な悪運の強さを発揮する。シチローは満足気に頷きながら呟いた。


「よしよし、これでオイラが旅行代を出さなくても済むぞ。あとは目録をもらって早く帰ろうか」


そう言いながら再び手をポケットに突っ込むと、そこにもう一枚の福引券が残っている事に気が付いた。


「あれ、もう一枚入ってたよ。でも、もう当たったから要らないな……後ろのオバサンにでもあげるか……」


シチローは、ひろきの後ろに並んでいた女性にその福引き券をあげてしまった。

そして、四人が喜びいさんで福引き会場を後にしようとした、その時だった……



♪カラン~♪カラン~


『またまた連続で大当たり~♪!』


「なんですとおぉ~!」


「『特等』なんてあったのかよ!」


「さっきシチローが福引券あげた、ひろきの後ろのオバサンだわ……」


「ハワイ旅行がぁ~~!!」



その夜…森永探偵事務所での飲み会が『大焼け酒大会』になった事は、言うまでもないだろう……







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