第37話 奏
「夏休みだからピアノ配信頑張るよ」
匿名:待ってました
匿名:やったね
匿名:久々のピアノ配信……!
匿名:願わくばもっとやって欲しい
「まあ、毎回できればいいけど、意外と学業と両立するには難しいんだよ。君たちが起きてる時間は、多分勉強してるし、二十二時半頃にはもう寝てるから」
そんなこんなで、夏休みとか長期の休みがない月は毎週配信とかは確約できないしね。
それに最近は有栖が家に来たり、その問題を片付けたり、体育祭があったり、ホームステイでエルが来たりと色々あった。
それにしても配信やらなすぎは否めないけどさ……
hiragi:やっほー後輩ちゃん
「げっ……」
柊先輩きやがった。
いや、この言い草は良くないか。
でも何故か苦手なんだよねこの人。
凄い所はあるけどさ……
匿名:お、先輩か
匿名:え、まさかこの人フタバちゃんの学校の先輩!? 羨ましい!
匿名:彼氏? 彼氏なのか!?
匿名:いや、その人女だよ
「柊先輩、暇なんですか……? 夏休みはサッカー部の合宿あるらしいですし、マネージャーとして色々やることあるでしょ? それにもう三年生なんだから受験とかも……」
匿名:なんだかんだ言うけどフタバちゃんって結構その人心配してくれてるよね
匿名:わかる、素が凄い優しい子だってのは伝わる
お、リスナーが褒めてる。
いやー、美少女すぎて照れちゃうなぁ……
hiragi:まあ、インターハイでうち全国出場するから、その分マネージャーとして忙しいけど、後輩ちゃんの様子はみたいじゃん
「はいはい。まあ、ちゃんと自己管理できるならいいですよ」
およそ害はないし、まあ、ある程度軽く接しとけば問題ない。
とりあえず、もう始めるか。
マイク設定の感度を少し高めて、雑音が入らないようにセットしてっと。
よし、ピアノを……
ピアノを……
「エルさんや、なんで座敷童みたいにすみっこでこっちをジッと見てくるんだ?」
なぜか角っこで三角座りをしながらずっと俺の方を見上げるエル。
ずっと無言だし正直怖い。
「いえ、私のことはおかまいなく」
いや、構うんだけど……?
仕方ない。
「ほら、そこじゃなくて、ここ座って良いから」
ぽんぽんと膝の上を叩く。
すると、エルはスタスタと近寄ってきて、座ってくる。
中学一年生とはいえ、凄い軽いな……
なんであんなにラーメン食べてるのに太ってないんだろ。
おかしくないか?
いやまあ、最近は一緒に半ば矯正的に走ってもらってるとはいえ、そんな急激に痩せるってもんでもないし……
匿名:フタバちゃんのお膝の上に座るエルちゃん、二人とも尊い……
匿名:エルちゃん小さくて、さっぱりおさまってる……
匿名:絵になるなぁ
匿名:それで、今日は何を弾くんですか?
匿名:やっぱカンパネラ……
「いや、今日はエルもいるし、パッヘルベルのカノンでも弾こうかな。たまには超絶技巧無しのゆったりとした曲にするよ」
匿名:アニソンとかもお願いしたい
「アニソンかあ……」
昔、未来で発表された曲を出癖で弾いちゃってからは、本当に最新の注意を払ってるんだよな。
それはきっと魂を込めて作曲した作曲家を殺してしまうことにも繋がるし、歴史を変えかねない。
それはアニソンに限らず、ほぼ全ての楽曲に会えるんだけどさ。
その点クラシックなら、色々な意味で弾きやすい。
そんなことを考えていると……
「アニソン、とはなんですか?」
エルが首を上げて俺の方を見ながらそう聞いてきた。
こうしてエルの瞳を間近で見たけど、ほんと透き通った海のような碧眼をしてて綺麗だな。
そんな感想を抱きつつ……
「日本のアニメカルチャーと切っても切り離せない音楽ジャンルだよ」
俺がそう回答する。
するとエルは少し考え込むように俯いて……
「アニメ……興味はありますが、一体何を見れば良いか分かりかねます」
「それなら、そこのリスナーたちに聞けば色々教えてくれるんじゃないかな」
匿名:よしまかせろ
匿名:魔法少女ものとか、アイドルものとかが無難か?
匿名:日常系はいいぞ……
匿名:色々おすすめしたいけど、ありすぎて迷っちまうぜ
コメントの流れる速度が、普段なら随分早くなってる気がする。
それにしても、エルって言葉は相当知ってるはずなのに、アニソンを知らなかったり、知識がチグハグで面白いな……
所々でエルが日本育ちじゃない部分が垣間見える。
「じゃあ、好きなの言ってってよ。自分はあんまり分からないから、耳コピして弾いてあげる」
カノンを優しく弾いて指鳴らししながらそう言う。
匿名:まじ!?
匿名:ダメ元で言ってみたけどすげえ嬉しい
匿名:それじゃあ……
______
____
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「とりあえず、御静聴願おうか」
耳コピを済ませ、メドレー形式で弾き始める。
匿名:うわ、なっつ……
匿名:ええなぁ、いつ聴いても名曲だわ
匿名:色褪せないねぇ
匿名:フタバちゃんのピアノ、ほんと感情を揺さぶってくるから怖いほどに美しい
「筆舌し尽くし難い旋律に、戦慄してます……」
しれっとダジャレも言うエル。
今ちょっと集中してるから、ツッコミできないんだ、すまんな……
そうしてコメントが流れ続け、メドレーを弾き終える。
「久々にこんな弾けて楽しかったよ」
「とっても凄かったです。どれくらいすごいかというと、語彙力が消失してしまったので、どれくらい凄いのか表せないくらいには……凄かったです」
「おお、そりゃ良かった」
匿名:最高だった。
匿名:はあ、フタバちゃんこんなアニブタたちに染まっちゃって悲しいわ
匿名:おいおいブラザー、なにを冗談言ってるんだ?
匿名:は、無知な荒らしがきたか……おまえら分からせてやれ
匿名:さーいえっさー!
折角終わりそうな雰囲気だったのに、最後の最後で、なんとも締まらない感じになったな……
「よし、見なかったことにしよ。それじゃお疲れ様」
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