第34話 柚子の香り
『さて、最後の競技です。皆さん悔いなく全力で体育祭に取り組めたでしょうか?』
『第五十二回体育祭終幕を飾る、最後の競技は……色別対抗リレー』
『一人四百メートル、一チーム五人の計二千メートルという長い規模でのリレーとなります』
『準備はいいか?』
『さあ、いきましょう』
『『フィナーレ』』
燈花体育祭名物の色別リレー。
400mの全力ダッシュはやってみると分かるが相当キツイ。
故に選手には体力とスピード、パスワーク、全てが求められる。
そして、体育祭の団長になる絶対条件が、この色別リレーに参加することである。
最後の花を飾るため。
そして……
体育祭が終わった。
「はあ、はあ、きっつ……」
走者全員、膝が笑ってその場で倒れ込む。
「こ、後輩ちゃん、中々やるなぁ」
「……柊先輩こそ」
「二人とも、同じ淑女とは思えないくらい早かった、ですわ……」
色別リレーでは女子は結、蒼葉、蓮華の三人のみ。
その理由は100mの成績でメンバーが決められるからだ。
・二葉 結
11.31秒
・柊 蒼葉
11.47秒
・桐谷 蓮華
12.02秒
三人とも女子とは思えないほど速いが……流石に優位には立てず、黄組に惨敗した。
「
「佐渡先輩って確か10秒台でしたっけ」
「そうそう、10.27秒」
「わあ、化け物ですね」
「なんで陸上部じゃないのですわ?」
「ずっとサッカーラブだからしょうがないよ。引き抜けないもん」
因みに、三人も陸上部に誘われているが全員断っており、陸上部顧問はがっくしと肩を落としていた。
一旦結はテントに戻って、椅子に腰掛けて猫の様にだれーんとする。
その光景にクラスメイトたちは癒されていたり、リレーで見せたかっこいい姿とのギャップにやられる者も沢山現れていた。
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「もう、終わりかぁ……長い様で短かった」
「凄い短く感じたよね。色別応援合戦とかみんなと一体感があって凄かったなぁ」
有栖がそう振り返りながら笑みをこぼす。
「有栖が楽しそうでよかったよ」
ちゃんと学校で馴染めるか少し心配だった結は、その屈託のない笑顔を見て安心する。
「また、来年だね。今度は一緒にリレーしたいから結に走り方とか教わりたいな」
「結構きついよ?」
「望むところ!」
「そっか、じゃあ毎日5キロ走ってみよっか」
「そ、それは……ちょっと、最初は優しめにお願いします……」
「あははは」
真夏の太陽と青空の匂いに、二人の笑顔が溶け出していくように、一夏の体育祭が終わっていく。
『では、結果発表といきましょうか』
『後半戦から計測はしたけれど、点数は隠していたから一体結果はどうなったんだ!?』
『白々しい棒読みですね先輩』
『そう言うお前はオーバーリアクションがすぎるぞ後輩』
さて、結果はどうだろう。
『では、五位から発表しましょうか』
『五位は……』
会場の雰囲気が一気に緊張に包まれる。
クラスメイトたちがごくりと唾を飲み込み、点数番を見ながら祈っている。
そして……
【五位緑組,246点】
そう表示された。
『さあ、最下位から免れた五位はなんと、緑組です!』
「「おっしゃああああああああ」」
緑組の方を見ると絶望から一変して歓喜に包まれていた。
まあ、ずっと事ある競技で最下位取ってたから、予想外だったんだと思う。
それにしてもめちゃくちゃ喜んでるな……
一位取った時ぐらいの喜び様だぞあれ。
『さてさて、お次は四位の発表です』
『四位は、なんと……赤組だああ!』
【四位赤組,266点】
予想外なことに最初順調だった赤組が四位だった。
『ねえねえ、柊、散々煽っといて負けてどんな気持ち? ねえどんな気持ち?』
『……』
解説の煽り力が余りにも高すぎる。
「あ"!? ぶち殺すぞ
嗚呼、普段温厚(?)な柊先輩がめっちゃキレてる。
『ど、どうしよ後輩……あの柊が鬼の形相で見つめてくるんだけど』
『先輩が蒔いた種なので私、関係ないですよ……』
柊先輩は終始獲物を狩る目で、解説の人を見つめていた。
『こほん、では、気を取り直して、堂々の銅賞。三位に輝いたのは一体どこでしょうか!』
『後輩、今ダジャレ言った?』
『……先輩はもう黙っててください』
【三位黒組,273点】
「わあ、まじか、リレーでトップに追いついたと思ったんだけどなあ」
「まあ、こんくらいか」
「しゃあない」
黒組の面々は喜ぶでもなくストイックに結果を受け入れていた。
『さて、次は二位の発表……と行きたいところですがもう上位の予想は立っていると思うのです再会発表です!』
そうして、ドベの表示が残酷にもの行われた。
【六位白組,231点】
「うそ、だろ……」
「三位と四十点も差があるのかよ……」
「うわぁぁぁぉぁ」
「が、頑張って来たのに……」
「ひっぐ、ひっぐ」
絶望する者、落胆する者、果てには泣き出すものまで現れて、白組のテントはもはやお通夜状態のようなものになっていた。
まあ……
無理もないか。
「わあ……勝負の世界って、残酷だね」
有栖がそう口にする通り、勝負の世界とはかくも残酷なものなのである。
『まあ、全員本気だったからこうなるのも仕方ないとはいえ……白組は頑張りました。私も白組の一員として、今は皆と同じく辛い気持ちですが、次に行きますね』
『おい、俺が変わってやる後輩。涙拭いてこい』
『先輩……意外とかっこいいとこあるんですね』
『まあな』
『断言するあたり、先輩らしいです』
あの二人のいちゃいちゃに苛立つ人もちらほら現れて来たところで、二位の発表に入る。
『さあ、惜しくも一位に敗れた最も順位の高い敗者は……』
【黄組二位,274点】
『黄組だああ!!!』
黒組とわずか一点差で二位に躍り出た黄組。
「うわ、あと一点かよ……」
「惜しい」
「おどりゃあ! 黒組がなんぼのもんじゃ!」
「されど一点差、黄組と黒組には天地の差があるのだよ」
「くそ、ギリギリ勝っただけの癖に……」
というわけで、消去法で考えると一位になったのは、俺ら青組だった。
ほんと、頑張った甲斐があったよ。
「ね、ねえ、結……もしかして、私たちが一位、なんだよね!?」
「そうだね」
「やった、やった!」
【青組一位,303点】
二位と二十九点の差があり、圧勝と言っても良いだろう。
『『栄えある第一位は、青組だ(です)!』』
最後にそう締めくくり、点数発表が終わった。
・青組 - 303点
・黄組 - 274点
・黒組 - 273点
・赤組 - 266点
・緑組 - 246点
・白組 - 231点
______
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エンディングに入り、各色の団長が前に出て、感想に入る。
「勝ちましたわ。私たちの、勝ちですわ」
青組団長、桐谷 蓮華が力強く言った。
その手には優勝旗が握られている。
「他より沢山練習して、沢山話し合って、最高のチームになれたから、勝ったんですわ」
そう言って一息ついて、蓮華は目を瞑る。
「嗚呼、皆様方のお陰で、さいっこうに、楽しめましたわ!」
全員が、その言葉に力強く頷いた。
「
最後にそう締めくくって綺麗にお辞儀をし、大きな拍手に包まれた。
「いいぞ団長ー!」
「さいこうだった!」
「「団長、ありがとうございました!」」
口笛が鳴り響き、青組一丸となって団長を讃える。
唯一の二年生として、自分の頼りなさを見せまいと努力し続けた結果だ。
その立ち姿は、誰にも恥じないものだと、断言できるだろう。
そうして一夏の青春、体育祭が幕を閉じた。
・午前の部
09:45 開会式
09:55 オープニング
10:10 二年生障害物競走
10:30 一年生借り物競走
10:50 三年生綱引き
11:10 色別応援合戦
11:30 色別騎馬戦
・午後の部
13:25 有志パン食い競争
13:40 部活対抗リレー
13:50 一年生大縄跳び
14:00 二年生大玉転がし
14:10 三年生二人三脚
14:20 色別担任障害物競走
14:30 一年生選抜リレー
14:35 二年生選抜リレー
15:40 三年生選抜リレー
14:55 色別選抜リレー
15:10 結果発表
15:30 エンディング
『団長競争』
一位黄組30
二位赤組25
三位白組20
四位緑組18
五位黒組15
六位青組10
『二年生障害物競争』
一位青組30
二位黒組25
三位赤組20
四位黄組18
五位緑組15
六位白組10
『一年生借り物競走』
一位青組30
二位白組25
三位赤組20
四位緑組18
五位黄組15
六位黒組10
『三年生綱引き』
一位黒組30
二位青組25
三位緑組20
四位赤組18
五位白組15
六位黄組10
『色別騎馬戦』男
一位白組30
二位青組25
三位緑組20
四位黒組18
五位黄組15
六位赤組10
『色別騎馬戦』女
一位黄組30
二位黒組25
三位赤組20
四位白組18
五位青組15
六位緑組10
『一年生大縄跳び』
一位黒組30
二位青組25
三位赤組20
四位黄組18
五位緑組15
六位白組10
『二年生大玉転がし』
一位緑組30
二位白組25
三位青組20
四位赤組18
五位黄組15
六位黒組10
『三年生二人三脚』
一位赤組30
二位緑組25
三位青組20
四位赤組18
五位黄組15
六位黒組10
『一年生選抜リレー』
一位黒組30
三位赤組20
三位青組20
四位白組18
五位緑組15
六位黄組10
『二年生選抜リレー』
一位青組30
二位白組25
三位黒組20
四位黄組18
五位緑組15
六位赤組10
『三年生選抜リレー』
一位黄組30
二位赤組25
三位緑組20
四位青組18
五位白組15
六位黒組10
『色別選抜リレー』
一位黄組50
二位黒組40
三位青組35
四位赤組30
五位緑組25
六位白組20
◆◇
クラスの打ち上げが終わった後、有栖が疲れて眠そうだったため、早々に切り上げておんぶしながら帰路を歩いていると、電話がかかってきた。
「え、今日帰ってくるの?」
『体育祭間に合えばよかったんだけど……少し予定が狂ってね』
電話越しでも伝わる残念そうな声で、お父さんがそう言った。
「今後の予定は? 帰って来た後はどれくらい日本にいるの?」
『帰ったらしばらくは日本にいるかな、長期休みを貰えたし』
「了解。じゃあお母さんも帰ってくるんだね」
『うん。それと、僕の友人の娘さんが日本に留学するから、ホームステイしたいんだけどどうかな?』
「え?」
ホームステイ?
「いつものことだけど急すぎない?」
『あはは、ごめんごめん』
はあ、それなら昨日の内に連絡入れて欲しかった。
まあどうせサプライズで今日体育祭に顔を出してびっくりさせたいから、敢えて黙ってたんだろうけど……
それにしても急すぎるほんとに。
「とりあえず分かった、いつ頃つきそう?」
『いま羽田空港いるから、あと三時間ぐらいかな』
「了解。今家着いたから、片付けとくね。じゃあ電話切るよ?」
『はいはーい』
電話を切って、ため息をつきながら鍵を開けて家に入り、有栖を起こす。
「有栖起きて、家着いたよ」
「ん、おはよぉ〜」
「手洗うから、一旦おろすね」
「うん、ありがとぉ」
まだ半分寝てるのか、呂律が回っていない有栖。
可愛すぎて、死にそう……
リレーで走った時よりも心拍数上がってる気がする。
手洗いうがいをして蛇口を止め、もこもこタオルで手を拭く。
それからは靴下を脱いでリビングに入る。
「あー我が家に帰ってきたぁ」
「今日は疲れたねぇ〜」
「沢山汗かいたし、先お風呂入ろっか。とりあえず沸かすね」
「うん」
というわけで、一旦湯船を洗ってお風呂のスイッチを押して十分くらい待つ。
ある程度お湯が溜まってきたから……
「今日は特別に草津温泉の入浴剤入れて柚子も入れるか!」
ふっふっふ、この時のために、買っておいたのさ。
お父さんたちも帰ってくることだし丁度いい。
「投下!」
混ぜ混ぜ。
あと五分で完全に湯船が貯まるし、そろそろ有栖を呼ぶかな。
「有栖ー、先にお風呂入る?」
そう聞くと、有栖は目を擦りながら……
「今日は、一緒に入りたいな」
少し気恥ずかしそうに柔らかくそう言った。
「あ、えと、じゃあ、一緒に入ろっか」
前よりかは一緒に入るということが増えたけど、それでもまだ慣れない。
いや、凄い嬉しいけどさ……
ブルマと体操着を脱ぎながらそんなことを考える。
「わあ、結、柚子のいい香りがする!」
お願い有栖、急に裸で抱きついてこないで……
心の準備が、出来てないから。
というか、あれだけ汗かいてたのに、なんで有栖の匂いってこんなに甘い香りがするんだろ。
俺、匂ってないかな……
大丈夫かな……
一緒にシャワーで汗を流して、新しく買って来たボディーソープを試す。
柑橘系のいい香りで、柚子ともよく馴染む。
「幸せ〜」
有栖の背中を流していると、猫撫で声で気持ちよさそうに有栖は言った。
お気に召してよかった。
「有栖、シャンプーするから目瞑っててね」
「うん!」
わしゃわしゃ。
先にトリートメント使ってたから、シャンプーが髪によく通る。
「じゃあ流すよ」
シャワーで有栖の髪の泡を流して、交代した。
「気持ちいい〜?」
「うん、気持ちいいよ」
「そっか、良かったぁ!」
前は有栖に洗ってもらうの断ってたけど、どうしてもやりたいって言われてからは、こうしてされるがままになった。
髪を流してもらって、タオルである程度拭いてから、念願の湯船に入る。
「ああ〜」
最高……
夏だから最近はずっとシャワーだったけど、やっぱりお風呂はいいもんだよほんと。
体育祭で疲れた身体に沁み渡る……
「……ねえ結、私、幸せだよ」
「そっか」
「きっと自分が求めていたもの以上に、結から貰ってきて、こんな幸せになって良いのかなって思っちゃうんだ」
「いいよ、有栖が幸せならそれで」
それが俺の一番の願い。
だから充分恩返しをしてもらってる。
「ねえ結……」
「ん?」
「えっと、やっぱなんでもない!」
「なんだよそれー」
「あはは」
そうしてお風呂から上がって、着替える。
多分そろそろお父さんが帰ってくる頃かな。
「あ……」
「どうしたの?」
「伝え忘れてたんだけど、今日、もうすこししたらお父さんたちが帰ってくるよ」
「ほんと!?」
髪を乾かし終わると、ちょうどその時ガチャリと、家の鍵が開いた音がした。
とりあえず有栖と一緒に玄関に向かう。
そこには、サングラス姿の父と母がいて……
もう一人、小さな銀髪碧眼の女の子がいた。
◆◇
後書き
二章『体育祭』完結です。
体育祭の話だけで凄い長かった……
自分自身も此処まで引き伸ばせるとは思ってもいませんでした。
この話でちょうど10万字突破、500人フォロー突破、30,000PV到達と、色々な記念が重なって、とても嬉しいです。
学生としての思い出が色褪せないうちにこの話を書けてとてもよかったです。
さて、これにて第二章は完結です。
少しでも面白いと思ってもらえれば、☆やフォロー、いいねを付けてくださると嬉しいです。
ではでは!
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