第19話 部活

 放課後の職員室。


あおき先生、コーヒーいる?」


「は、はい。菅原すがわら先生ありがとうございます」


 菅原すがわら 雪宗ゆきむね先生。

 私と同じ体育を担当する先生で、色々と教えてもらっている。


「そろそろ慣れてきた?」


 菅原先生はそう聞いてくるけれど……


「そうですね、まだ全然」


「新規部活の立ち上げとかもあったし、大変だろうけど頑張ってね」


「はい」


 そう言って菅原先生は自分の席に座ってコーヒーを啜りながら作業を始めた。



 そんな姿を見て、落ち着きを取り戻したと同時に、余計な思考もできるようになってきて……

 

 今思ったけれど、この高校って美形な人が途轍もなく多い。


 菅原先生は体育教師だからかラフな格好でおへそが出るほどに小さいTシャツとスポーツパンツを身につけていて、腹筋が凄い割れてるのが見て取れる。


 テレビで良く見る女子マラソン選手みたいな、無駄を削ぎ落とした体型だ。


 それに比べて私は……


 背は低い。

 胸はない。


 肋がくっきりと見える痩せ型。

 おまけにお腹がちょっとぷにっとしてる。


 体育教師にあるまじき体型。


「うう……」

 

 コンプレックスというほどではないけれど、やっぱり少し人の目が気になってしまう。


 身長もこの前測った時は130cmくらいだったっけ……




「あれ、檍先生こんにちは」


 色々と考えごとをしていると、二葉 結さんと廊下で鉢合わせた。


「こんにちは、二葉さん」


「なんか……元気なさそうですね」


 心配そうに見つめてくる二葉さん。

 とっても可愛い子だなぁ……




「そういえば部活の予定とか組んだ方がいいですよね」


「あ……部活」


 体育祭と授業のことで手一杯であまり考えられる時間が無かった。


 ど、どうしよ……


「とりあえず週三日くらいにして、曜日は後でみんなを集めて決めましょうか」


 二葉さんはそう言いながら部室に一緒に向かった。




 部室の扉の上の方にはデザイン部というお洒落な看板がかけられていて、中に入ると、木の温かみを感じるカフェのような空間が広がっていた。


 なにこれ!?


「ここは部活以外で使ってなかったので、大改造したんですよね。一応校長先生に確認取ったり、デザイン部としての信用を得るために学校のWebホームページを制作して実績を作ったので文句は言われませんよ」


 そう言う二葉さん。

 なんかしれっと凄い事言ってるような……


「彼方が最近、彼方のお爺さんのお店、古いお洒落なカフェで色々と習ってるそうなんですけど、そのイメージを反映させた結果こうなりました」


 その後に、“こういうのもデザインの一環として良いですよね”と軽く言った。


 部室の変わり様がとんでもないよ……


 真ん中には茶色のソファーと木目が感じられるテーブル。

 

 そこには観葉植物としてのサボテンと、デッサン用の人形があったり。


 壁際には横長の濃い茶色のデスクと、パソコンにディスプレイ、液晶ペンタブレットが置かれていた。


 こ、これ自費で揃えたって言ってたけれど、何十万もするんじゃ……


 そんな考えを見透かされたのか、

 “大丈夫ですよ”と二葉さんは言った。


______

____

__


「結、来たよ……ってあれ、檍先生こんにちは!」


「こんにちは」


 有栖が元気よく挨拶しながら部室の扉を開けて入ってくる。


 それから彼方と翡翠も後を続くように入ってきて、全員揃った。



「んじゃ今日は、部長決めと活動内容のすり合わせ、それから活動する曜日の詳細を決めるんけど、まず来れない日はある?」


 最初にそう切り出して、紙とペンを机に置く。


「うーん、僕は基本的に木曜日が塾があるのでそこは来れないですね」


「私は火曜と、翡翠くんと同じく木曜にお祖父様の手伝いがあるからいけないわね」


 つまり火曜と木曜は無しか。


「じゃあ月水金が活動日になるけどおっけー?」


 俺がそう言うと三人とも大丈夫だと頷いた。


 それから部長を決めることになったんだけど……


「部長は結だと思う」


「部長は結でいいんじゃない?」


「僕も賛成です」


 俺も部長をやりたくない理由も特になかったし、これまた素早く決まった。


 活動曜日と部長が決まったので、紙に書いたメモを檍先生に渡しておく。



 それからは、部室の壁に部員と部長、顧問の名前、活動曜日が記載されたポスターをみんなで作成することになったんだけど……


「……彼方って、絵心無いね」


「無くて悪かったわね」


 犬のような何かを描いた彼方。

 どうやらこれは猫らしい。


 これには翡翠も苦笑い。


 有栖はいつものように微笑んでいて可愛かった。


 檍先生もそんな俺たちの様子に、ニコニコしていた。



 とりあえず全体的に完成してきたので、最後に色を塗る作業に入る。


「良い感じかな?」


「そうですね」


 仕上げの作業の殆どを俺と翡翠でやり、有栖と彼方はそれを見守る係となった。


「よし!」


 そうして出来上がったものを壁に飾って、みんなでそれを眺める。


 なんていうか、凄い達成感があるなぁ……


 名前とかは字が綺麗な彼方にやってもらって、有栖には装飾の下絵と案を貰い、最終的には俺と翡翠がそれを形にした。


 全員で作るっていうのも、大切なんだと実感する。



「そうだ、皆さんで写真撮りませんか?」


 檍先生がそう言ったので、みんなでポスターの周りに集まって、写真を撮ることになった。


 有栖は思いっきりの笑顔で、可愛らしいポーズをとって、彼方もいつもの気怠そうな表情とは違って少し微笑む。


 翡翠は、硬いポーズで定番のピースを作り、俺は真ん中に立って、ポーズと笑顔を浮かべた。


「皆さんいきますよ、はいチーズ」


 何枚か写真を撮る檍先生。


 それからは檍先生も含めて、もう一度改めて撮る。



 これもきっと、大切な思い出として残るんだなって……


 そう思った。

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