第29話 ボクは絶対に許さないよ

「ふむ、やはり君とは分かり合えんな。別に君の賛同はいらない、では来てもらおう」


「何すんの!?これから合コンなんだけどー!?」


 泰輝さんは僕の言葉に聞く耳を持たず、ずんずんと進んでいってしまう。腕を引っ張られながら連れていかれるギャルたちは困惑の表情を浮かべている。というか、非常に迷惑そうだった。


「だから、離せってっ!」


「あ……」


 全く言い分を聞いて貰えずに不満が爆発したギャルは泰輝さんを突き飛ばした。泰輝さんは予想していなかった衝撃に体をふらつかせる。だめだ、あのまま倒れたら頭から行く。


「泰輝さん……!」


 言っておくが、僕はそこまで身のこなしが素早い訳では無い。どちらかと言えば運動は苦手だし、それに比例するように反射能力も人より低いはずだ。だから、この時はきっと火事場の底力ってやつだったんだろう。


「五十嵐、大丈夫か?頭を打ったか?」


 散々迷惑というか、手間というかをかけられたけれどあくまで泰輝さんは客人だ。怪我なんかさせられない。僕は気づけば自分が下敷きになるように泰輝さんを守っていた。


「あー、はい……。あいたた……」


「智季くん?何かありました――」


 泰輝さんの声掛けに応じるように体を起こす。体を床に打ち付けたからか、多少の痛みはあるけれどそこまで酷くは無さそうだ。でも、音は派手だったらしく冬花さんが様子を覗きに来た。


「雪白……!?もしかして、これって解決部ってやつ?」


 ギャルたちが顔を顰める。その足は後退りをし、そこから立ち去ろうとしていた。でもその気持ちがよく分かるほどに冬花さんが殺気のようなものを放っている。


「智季くんがこうなったのはどなたのせいですか?」


「い、いや、不可抗力っていうか。この人には手を出してないっていうか……」


 冬花さんが冷ややかな声で言った。いつもも感情の読み取れない起伏のない声をしているけれどこんな寒々しい声では無い。この声は1度だけ、そう流星さんに対して出していた声に似ている。


「どうして欲しいというご希望はありますか?退学ですか?それともこの町から追放して差し上げましょうか?」


 冬花さんは相手に有無を言わせない毅然とした態度で言い放つ。出てくるワードが全部物騒すぎる……。これは僕の不注意でなったことなのに……。


「違うってば、うちらは絡まれたからそれを振りほどいただけで……ってびっくりした!?」


 言い訳をするギャルたちの後ろに無言で立つ星野先輩。身長が高いからか、圧を感じる。というか、止めないとその人たちは悪くないんだと。


「「誰かー、ケバケバギャルがこわーい」」


「げっ!?もういいってば!」


 僕が彼女たちを庇おうとすると、双子が大きな声でギャルを脅した。すると、それに顔を顰めたギャルたちはそそくさと逃げてしまう。意外と体が痛くて素早く動けなかったな……。


「智季くん……」


 冬花さんがこちらに駆け寄ってきて、心配そうに僕の顔を覗き込む。そんな不安そうな顔で見られるほど、重傷じゃない。それになんだかそんなに見つめられると心臓が騒ぎ出す。


「だ、大丈夫です。ほんとに打っただけで」


 そう言って笑いながら立ち上がろうとする。すると、右足首に激痛が走った。気付かぬうちに、足首を痛めてしまったみたいだ。


「っつ――。あはは、情けないですね」


 自嘲的に笑う。自分から巻き込まれに行って怪我をするなんて。最近本当に僕らしくない、でもそれを悪くないと思っているのがさらに僕らしくない。


「こ……!」


 僕は冬花さんの頬に手を添えて、笑いかけた。大丈夫だと意思表示をするためだ。だって彼女はさっきから僕よりも痛そうな顔をしている。


「これだ!これこそ私が求めていた画。実に美しい……!あまり期待していなかったが、いい意味で裏切られたよ。これはきっと彩芽さんも喜んで――」


 興奮したように声をあげる泰輝さん。意気揚々と語りながら、彩芽に視線を向けた。途中で声が止まったのはその視線の先に捉えられた彩芽がとても期待していたような表情をしていなかったからだろう。


「あ、彩芽さん……?どうしてそんな冷たい目を……」


「うん?何を勘違いしてるのか分からないけどさ」


 泰輝さんが戸惑ったように彩芽に声を掛ける。すると、彩芽は表情こそいつもの飄々としたものだったもののいつもより冷めた声で言った。その目は泰輝さんを蔑んでいるように感じる。


「男子生徒をターゲットにしてるからって女子を無下に扱っていいわけじゃないんだよね。それに、大事な部員に怪我をさせるのはもちろんボクの趣味じゃないし?何より……冬花ちゃんを悲しませるやつをボクは絶対に許さないよ」


「ぇ……」


 冷たい声が部室に響く。最後の一言にそのほかの言葉より何倍も気持ちがこもっている気がして、僕が言われている訳では無いのに背筋がゾクッとする。言われた本人の泰輝さんは声にならないような声をあげた。


「どうしてだ……彩芽さんに喜んで欲しくて……。彩芽さんの役に立ちたくて……。それが伝わらなかったって言うのか……?」


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る