第26話 一発屋芸人と化すぞ
「泰ちゃん、泰ちゃん♪」
そんなアタフタと動き回る僕たちを横目に秋元先輩が泰輝さんに近づく。あの人に話しかけられると抗えないんだよな……。と思いながら僕はその様子を見送る。
「お勉強もいいけど、休憩も必要だと思うな☆ね、お茶にしない?」
ぴょんぴょんと効果音がつきそうな動きで秋元先輩が泰輝さんに近づく。すると、泰輝さんは冷たい視線を送るのだった。あの人にそんな目線を向けられるんだから泰輝さんもなかなかの大物な気がする。
「つまらないな……」
凍りつきそうな目で僕たちを見回しながら泰輝さんは、言った。そして、冷たい声で言い放つ。えっと、つまらないなら帰ってもらっても僕たち的にはいいんだけど……。
「全員が全員、つまらないんだよ」
その言葉は僕たち全員に向けられていた。はて、結構色んな人に満足いただいてる気がするんだけどなぁ……。でも、泰輝さん的には気に入らないらしかった。
「全員ギャップというものを感じないんだ。男というのは本能的にギャップを求めているんだよ。そんなキャラクター真っ向勝負では一発屋芸人と化すぞ。君たちはゲッツとかヒロシですと同じ扱いを受けたいのか!?」
泰輝さんが熱弁する。ギャップ……って自ら意識して作るものなのだろうか……。そして、後半は何を言っているのかほぼ分からなかったんだが。
「私がプロデュースしてやろう。1番最初はそこの君。そもそも本物のロリだけを求めているロリコンは幼女を愛でるんだ……」
泰輝さんが秋元先輩を指さす。いきなり矛先を向けられた秋元先輩はあわあわとあざといポーズを繰り出した。幼女を愛でたら愛で方によっては犯罪だろ……?
「だから、そうだな。君みたいな子は裏表が激しくて腹黒属性を持っていたりするといいんじゃないか?」
顎に手を当てて秋元先輩にキャラ付けを指示する泰輝さん。指示された秋元先輩はぽかんとしながら首を傾げている。秋元先輩に腹黒か……想像がつかないな……。
「星野先輩はそんな腹黒秋元先輩をずっと見てきて思う部分はあるが、特別な思いから本当に伝えたいことを言えないキャラ。たまに言いそうになるが言わないことでじれったさを演出するんだ。双子の君たちはお互いを必要としながらもお互いを本当は煙たがり合っている。そこの君は、清純派ながらも内に秘めた穢れと葛藤しているということにしようか」
泰輝さんが次々とキャラクターを指示していく。それぞれ合っているような合っていないような、微妙なキャラ付けだった。僕に至っては全く違うけれど。
「そして、ラストは君だ。無表情ながらも渦巻く感情を抑えきれずにたまに暴発するクーデレキャラ。照れる時は是非盛大にしてくれたまえ」
泰輝さんがメガネを押し上げながら得意そうに笑った。なんだか満足されているようだが、僕たちはこの後どうすればいいのだろうか。部活でもこのキャラでやっていくとすればだいぶ大きな路線変更になってしまうのでは?
「案外、私でも行けるかもしれませんね」
「彩芽さん!彩芽さんは存在してくれているだけで十分だ。私の隣で笑っていてくれ」
「さっすがボクだね。うん、ありがとう」
泰輝さんに乗せられた冬花さんは目を若干輝かせながらどうやら彼のリクエストに応えるらしい物言いだった。そして、彩芽に関してのイメージが1番作り上げられた偽物であるということは部員全員が分かっていたけれど言える雰囲気ではなかった。彩芽自身も否定するよりも合わせた方が楽だと思ったのか、適当に頷いている。
「「彩芽、責任取ってよ」」
「え〜、なんでボクぅ?ボクは勝手に惚れられちゃっただけだしね、五十嵐センパイの方が懐かれてるみたいだしそっちに頼んでよ〜」
「泰輝さん、暴発というのはその……自分の感情を溢れさせるということなんでしょうか」
双子が彩芽の方を向いて訴えかけるも軽く躱されてしまった。それどころか責任の行きどころが僕に向かっているのがどうしようもなく不本意だった。そして、冬花さんはなぜそんなに前のめりに頑張ってるんだろうか……。
「冬花センパイが楽しそうだし、ボクとしては別にいいんじゃない?って感じ〜」
「ふむ、エースとしては認められないがなかなか順応性はあるようだな」
肩を竦めながら他人事のように言う彩芽。泰輝さんは冬花さんの演技プランを見て納得したように頷いている。え、本当にそのキャラやるんですか?
「まーまーいーじゃん?ボクの読み通りならきっとみんな楽しめると思うな〜」
くすりと笑った彩芽は無邪気なように見えて、きっと心の奥底で様々なことを考えているのだ。初めは可愛いボクっ娘系後輩だと思っていたけれど、最近は違うことに気づき始めた。多分1番敵にしたら怖いタイプなのだ。
▼▽
「なんかいつもと雰囲気が違くないか?」
その様子を見た男子客は戸惑いの声をあげた。その男子は自分の両脇を挟む双子たちを交互に見ている。そして、2人の雰囲気の違いをなんとなく察しているようだった。
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