Ⅱ 謎の指示

颯人は一夜明けても、昨晩の謎のメッセージが頭から離れなかった。スマートフォンに届いた「君の力が必要だ。世界の歪みを修正するために。」というメッセージは、彼の心に深い不安を刻み込んでいた。普段は何事にも動じない颯人も、今回は違った。自分が選ばれる理由がわからず、ただただ焦りが募るばかりだった。


大学の講義が始まっても、彼の心は落ち着かず、教室の窓から外の景色をぼんやりと眺めるだけだった。授業の内容は耳に入らず、目の前のノートに無意味にペンを走らせるだけだった。講義が終わると、颯人は心ここにあらずの状態で、キャンパスをさまよいながらも、再びメッセージのことを考え続けた。


「本当にこれは信じていいのだろうか?」


その疑問が脳裏をよぎりながらも、颯人は再びスマートフォンを取り出し、メッセージのリンクをクリックすることに決めた。リンクを開くと、見慣れないウェブサイトが表示された。ページのデザインはシンプルで、中心に「重要な任務が待っています。指示に従ってください。」とだけ書かれていた。


颯人は不安を感じながらも、ページに表示された地図に目を向けた。地図には、大学から電車で約一時間ほどの距離にある廃工場が示されていた。颯人の心は一層混乱した。これが本当に自分に関係することなのか、単なるいたずらなのか、判断がつかなかった。だが、心の奥底には、何か大切なことが始まる予感があった。


「とりあえず行ってみるしかないか。」


そう決意し、颯人は駅に向かう準備を始めた。電車に乗り込み、廃工場があるという駅で降りると、周囲は予想以上に寂しい場所だった。道は人通りが少なく、周囲の風景もどこか廃れて見えた。颯人は地図を片手に、廃工場までの道を進んでいった。


廃工場に近づくにつれて、暗く陰鬱な雰囲気が漂ってきた。建物の外壁は錆びつき、扉は風に揺れている。颯人は少し怯えながらも、決意を固めて廃工場の扉を押し開けた。中に入ると、薄暗く、埃っぽい空間が広がっていた。朽ちた機械や古びた工具が無造作に置かれ、長い年月を経た感じがした。


建物の奥に進むと、突然、足音が響き、颯人は驚いて振り向いた。そこには、穏やかな表情をした見知らぬ男性が立っていた。彼は、颯人に向かってにっこりと微笑んでいた。颯人はその姿にほっとしつつも、警戒心を解くことはできなかった。


「櫻井颯人さんですね。お待ちしていました。」


颯人はその言葉に驚き、少し戸惑いながらも、男性に向かって言った。「あなたは誰ですか?どうして僕にこんなことを?」


男性は優しく微笑みながら答えた。「私はこの世界の‘調停者’です。あなたには特別な使命があります。これからの指示に従ってください。」


颯人はその言葉に驚きと不安を感じながらも、男性の手を取ることに決めた。調停者と呼ばれるその男性は、颯人を廃工場の奥にある一室に案内した。部屋には、整然とした事務机と数台の電子機器が並んでいた。調停者は机の上に置かれた一冊の本を取り、颯人に渡した。


「この本には、あなたがこれから直面する試練に関する情報が書かれています。まずはこれを読んで、その内容を理解してください。」調停者は言った。


颯人は本を受け取り、その表紙をじっと見つめた。「試練の書」と題されたその本には、世界の異常な変化や、特異な能力者たちの存在について詳細に説明されていた。特に、世界には調和と秩序を保つために特別な力を持つ者たちが存在し、その力を使って歪みを修正しているということが書かれていた。また、無能力者である颯人が、その役割を果たすという例外的なケースについても触れられていた。


颯人は本を一通り読み終えると、調停者に向かって言った。「これからどうすればいいのですか?」


調停者は頷きながら言った。「次は、これから直面する試練をシミュレートする装置を使います。あなたがその中でどのように行動するかを見て、あなたの適性を判断します。」


颯人は装置の前に立ち、操作パネルに触れた。瞬間、周囲の景色が歪み、颯人は全く異なる場所に立っていた。目の前には、赤く染まった空と、歪んだ建物が立ち並ぶ奇妙な風景が広がっていた。周囲には異常な気配が漂い、颯人の心は緊張でいっぱいだった。


試練が始まると、颯人は様々な困難に直面した。動く障害物が彼の行く手を阻み、謎のクリーチャーが襲いかかってきた。颯人はその一つ一つに挑戦し、どうにかしてクリアしていった。試練の中で、颯人は自分の力ではなく、思考力と冷静さが鍵であることを実感した。特に複雑なパズルや問題を解決するために、彼は冷静な判断力と状況を分析する能力を駆使した。


試練を終えた颯人は元の部屋に戻り、調停者が彼を迎え入れた。調停者は微笑みながら言った。「よくやりました。あなたの試練を見て、あなたがこの使命を果たすための資質を持っていることがわかりました。これから、あなたに必要な道具と情報を渡します。」


調停者は、颯人に特殊なアイテムと情報を手渡しながら続けた。「これらは、あなたがこれからの任務を遂行するために必要なものです。運命を変えるための第一歩を踏み出しました。次は、実際の問題に直面することになります。準備はいいですか?」


颯人は深呼吸しながら答えた。「はい、準備はできています。」


調停者は頷き、颯人に向かって励ましの言葉をかけた。「それでは、行ってください。あなたの運命を変えるための戦いが始まります。」


颯人は新たな決意を胸に、これからの挑戦に向けて歩き出した。彼の物語は、ここから本格的に始まるのだった。





第二話をご覧いただき、ありがとうございます。


颯人が初めての試練に挑む様子をお届けしましたが、いかがでしたでしょうか?謎のメッセージから始まった颯人の冒険が、さらに深い展開を迎えています。これから彼がどのように成長し、どのような試練が待ち受けているのか、一緒に見守っていただければ嬉しいです。


次回もお楽しみに!

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