6

 「もう限界だ。こんなの、じっとしていられるかよ!オサム、絶対助けるからな……今度は、俺が助けるんだ……!」

 


 桜坂の寮では、1部屋を2人で使用している。部屋に戻り、コウが居ないことに気付いた僕は、凄く嫌な予感がして、真っ先に古春と愛子に伝えた。

「大変だ!コウがいないんだ!」

「なんだって⁉︎手分けして探さないと!」「様子がおかしかったものね……」

「どこに行ったか分かるか?愛子。」

愛子はコクっとうなづいた。

「まだ、遠くには行っていないはずよ。」

僕らは寮を飛び出し、月ノ宮浜に向かった。



 「おーい!オサムー!いたら返事しろーー!オサムーー!」

コウは力の限りを尽くして声を張り上げた。でも、返事はなかった。頭では分かっていたが、体が先に動いてしまうのだ。コウがとぼとぼ歩いていると、浜辺の隅に、木々で隠れていて分かりづらかったが、確かに何かがあることに気づいた。茂みを掻き分けてみると、そこにあったのは飛行機だった。

「比良ノ邦産の飛行機じゃないな……なんだコレ……」

その時だった。大きな石を持った男がコウに背後から近づき、持っていた石を、ガンッとコウの頭にぶつけた。コウはそのまま気絶し、飛行機に乗せられた。

 数分後、ルイ達は月ノ宮浜に到着し、そこでルイは、空中に、1機の飛行機を見つけた。さっきまで声が声が聞こえたのに、コウの姿が見当たらない。そして、一つの答えに辿り着いた。

「おい、なんだあの飛行機は……!滑走路や倉庫も探したけど、飛行機が飛んでいく様子は無かった。ああやっぱりな。そうだ、神隠しなんてものは存在しない……これは、人攫いだ……!」

僕らは先生達にこの事を伝え、20分後、飛行機の追跡が開始された。学生も、僕、古春、愛子、他数名が練習機に乗り込み追跡に参加した。練習機、カンナミ。複座機だ。僕は古春とペアを組みカンナミに乗り込んだ。

「敵機発見。引き続き雲に隠れながら追跡せよ。」

静かな夜の空に、ゴオオオオオと、エンジンとプロペラの音が響き渡る。操縦席の風防は開放式なので、夜空が直接目に届く。追跡を初めて30分が経った時、偵察機から信号が送られてきた。"北西、上空に、物体を発見。"

「何も見えない……」

僕は目を凝らした。そして、自分の目を疑った。

「……雲の上に街がある…⁉︎」

「……雲ノ島だ。」

「古春、あの街の事を知っているのか⁉︎」

──雲ノ島。

それは、名の通り空に浮かぶ巨大な雲の島。雲を纏い、大空を従えて、不可思議なことに浮揚している、その姿はまさに、天空の使者。陸地部分はもちろんあるが、とても薄い上、常に雲に隠れているため、外から見る事はできない。ここ、比良ノ邦では有名な御伽噺だ。だが、存在を信じているのは小学校に入る前の子供くらいだ。誰もが、御伽話に過ぎない、そう思っていた。だが──。

「空ノ島は存在したんだ……」

「そうか、ここの住人が、オサムとコウを攫っていったのか……」

僕は震える手をギュッと握りしめ拳にした。そして、力と怒りを拳に込めた。拳の中心が、熱を帯びていく。

「……許さない‼︎」

その叫んだ時、先頭を務める機体から信号が送られてきた。"場所は掴んだ。一旦退避。これ以上近づくな。"

「そんなっ……!」

目の前にコウとオサムがいるのに、助けられない。遠くなっていく空ノ島の飛行機に手を伸ばした。腕がちぎれそうなほど手を伸ばした。それでも、届かなかった。僕は自分の無力さを痛感し、歯を食いしばった。

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