「教祖ちゃん」

──天使様はそれはそれは御姿麗しく、凛と伸びましたる背の中程までの髪は漆黒の如く艶めきまして、道場の窓より射し込む日に照らされますと清流のようにきらりきらりと輝きます。


「そう、それがわたし」


──天使様のその御口より流れ出ます御言葉は、天国の金色の草原にて奏でられます楽曲のまさにそれであります。どこまでも透き通る御言葉は我々の心の奥底に染み入りまして、魂をお救い下さるのです。その御言葉は世界の摂理であり絶対の真理なのでございます。


「そうよ、わたしが右と言ったら右。ワケギと言ったらワケギ。ネギじゃないのよ」


 だと言うのに、ミキちゃん先生と来たら、長髪は縛りなさい校則違反ですとか香水はつけてはいけません校則違反ですとか。


「香水じゃなくて、お香。本物の香木をお焚き上げしたの。朝のさ、説法で。インドのなんとかってお坊さんがさ、くれたやつ」

「香水も香木も校則違反です。それにあなた、説法する立場じゃないでしょ。私に説教されてるのよ」


 ぐぬぬ、神の言葉も恐れぬ背徳者め。このあと、わたしは教団のそういうの専門部隊を使ってミキちゃん先生を拉致り、縛り上げ、辱め、1週間水だけ生活をさせ、24時間ヘッドフォンでわたしのありがたい説法を聞かせたりした。でも、ミキちゃん先生は本当に黄金の魂の持ち主だったようで、決して屈さず、清く、そうしてわたしを更生させるのだと自ら教団に入信し、あれよあれよと上り詰め、今や大幹部。わたしの右腕と左腕を兼任している。


「ミキちゃん先生、テストだるい。ハルマゲドンしたい」

「天使様、教団内で先生はおよし下さい。それに天使様のお役目は全人類を救うことと、勉学に励むことですよ」

「ふええーい」


 そうして、連日のテスト勉強も虚しくわたしは赤点をとり、職員室でまたもやお説教。


「ミキちゃん、もうだめだー。行ける大学ないわ、教団に就職して世界滅ぼすわ」

「学校では先生と呼びなさい。簡単に諦めてはダメ。簡単に世界滅ぼしちゃダメよ」


 「ミキ先生、精が出ますね」と近くの席のイケメン先生がミキちゃん先生に声をかけると、ミキちゃん先生は頬を染め俯いた。ミキちゃん先生はイケメン先生に惚れているのであり、イケメン先生もその事を察しているので時々食事に誘ったりする。しかし、教団調べでは実はイケメン先生には既に彼女がおり、これはミキちゃん先生に対する背徳行為だ。


「ミキちゃん、どうする? イケメンの彼女拉致る? お金掴ませてもいいけど。それか殺る? 道場の床下に埋めときゃ絶対見つかんないよ?」


 心配になって、ミキちゃん先生に伝えた時だ。

 ミキちゃん先生はわたしの手を取り、真実の愛についてあれやこれや教えてくれた。ははっ、どっちが教祖様かわかんない。最後にミキちゃん先生はわたしをぎゅっと抱きしめ「いつか天使様にも分かるわ」そう言った。ミキちゃん先生の言葉も、体もとても温かかった。


 それが最後に感じたミキちゃん先生の温もりであり、ミキちゃん先生はイケメンにいいように弄ばれ、貢がされ、仲間の先生共にまわされ、そうして穢れ、とうとう教団のお金に手をつけてしまったので致し方なく、道場の床下に埋めた。


 今も説法なんかしていると、時々神様の声に混じってミキちゃん先生の声が聞こえる事がある。

 そうだね、ミキちゃん先生。


「そんなわけで、そろそろ全人類救おっか」


 そうよ、わたしが右と言ったら右。ハルマゲドンと言ったらハルマゲドン。春巻き丼じゃないのよ。

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