見つかりました。

 さあ、どうだろうか。

 いつものイマジナリー部長から少し趣を変えて、ちょっと子供っぽい一面を強調してみた。その分、部室にいる時よりもいくらか距離感は近い。さらに、ちょっと古めの青い背表紙。「底がゴム製の運動靴文庫」で、純文学だけじゃないカジュアルな部長の読書幅を演出しつつの、「ちょっと昔」の言葉でマニアックさも醸し出す。

 会話のポイントとしては「なかったー」の「ー」。まあこれは、パク······とある作品からのオマージュ。風に揺れるケヤキの葉が「盗作」「盗作」と騒いでいるが断固オマージュだ。そして頬を染めての「家、来る?」なんかは正に「いやはや」じゃないだろうか。



「これは、良いな!」


 と生徒会長も百合の花の香りを撒き散らしながらご満悦。この調子で愛らしいイマジナリー部長を描いて行こう、そう思った。


「おっと、見つかったようだ」


 生徒会長の言うところ、みざりぃの「描写圏」に入ったらしい。あっという間に地文の支配権を奪われる感覚がした。振り向くと、遊歩道の真ん中、『夏の思い出』のブロンズ像の影から赤いセルフレームの少女。みざりぃだ。


「ぬりや君、みーつけた」

「どうしてバレた?」

「今はわたしが『イマジナリー文芸部』の部長なんだよ?」


 これは盲点だった。前回の部長の描写には一度も「部長」の前に「イマジナリー」をつけなかったのだ。僅かな隙を突かれ、その「部長」を郷愁ノスタルジアに「みざりぃ部長」と解釈されたようだ。


「ヌリー、来るぞ。気をつけて」



 【前回までのあらすじ】


 高校三年生の春、小雨の中を傘もささず歩く男子生徒の姿が、何故か印象に強く残った文芸部の部長。昇降口や渡り廊下、時々すれ違うその後輩を彼女はいつの間にか目で追っていた。

 ある日、彼女の所属する文芸部のドアがノックされる。個人で執筆活動をしていたと言う、ドアを叩いたその人物は、彼女がいつもたくさんの生徒の中からその姿を探していた、後輩の彼だった······。



郷愁ノスタルジアめ。臆面もなく、露骨に改変して来たね」

「あらすじ捩じ込むなんて。こんなことできるんですか」

「キミも大して変わりないと思うが。どうやらあちらの『夏の思い出』の書き手の方が手練れのようだね」


 ぐさり。いやいや、なんと言ってもこちらはあくまで初心者。


「いやはや」


「邪魔しないで寓意アレゴリー、盗作だよ?」

「キミこそ。ボーイミーツガールに必要なのは郷愁ノスタルジアではなく冒険オデッセイなのだよ」


 さあ、どうだ。と思う。なかなか熱い展開じゃないだろうか。普段はどちらかと言うと、文章の温度が低いのだが『イマジナリー文芸部』にある意味侵食されているらしい。厨二感満載のルビ、そしてこのメタ的戦闘描写。まさか文芸フィールドで、熾烈な戦闘が繰り広げられるなんて部長も驚きじゃないだろうか、なんて考える。でも、どうだろう。「そういうところだぞ」なんて怒られるかも知れない。それはそれで、すごく良い。


「いいね。郷愁ノスタルジアの描写圏から抜けた今のうちに『8時だョ!全員転生』に飛び込め。ここはボクが防ぐ」


 みざりぃが巻き起こす怒涛の描写の風に、ざわめくケヤキの葉が「フラグ」「フラグ」と言うのも顧みず、生徒会長が叫ぶ。


 そして蜘蛛の糸が切れるような感覚がした後、意識を失った。

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