やるだけやりました。

「まさかのわたし目線」


 イマジナリー課外活動で書き上げた、前回の作品を読むなり最初に部長は言った。


 何度か書き直すも、同じような出だしになったので、このまま突っ切るしかない、と何とか最後まで書き切った感じだった。

 いつも通り、こってり舞台を描写してスタート。ケヤキ並木にいくつか、ブロンズ像があった事を思い出して検索。彫刻の作品名は「夏の思い出」これはとても良い。と、タイトルとエンディングに持ってくることにした。

 作品に出てくる色は、緑と決めたら緑系の和色を調べて一番イメージに近い色味、そして響きや字面の良いものを持ってくる。合わない時は文章の方を変える。今回は、季節の雨も同じ手法で調べて使ってみた。

 つくつくぼうしの鳴き声のくだり、バス停の屋根を雨粒が叩くくだりは、没ネタのストックから。

 あとは、直接的に「好き」とか「悲しい」とか「振られちゃった」とか言わないように気をつける。


「こんなところです」

「ホントに? なんか隠してない?」


 そう言って部長が目の奥を覗き込んで来た。言わぬが花、とも言うじゃないか。素知らぬ顔でやり過ごす。


「まあ、いいや。えーと、まずはポエムかなって思いました」


 ぐさり。そうなのである。描き終わったすぐあとは、まあまあかなと思ったのだが、次の日見てみると何だかこそばゆい。


「あと、季節の雨のくだり。それからシャツやら帽子やらが染まるところ。これ前にも使ったよね?」


 ぐさりぐさり。季節の雨のくだりは、時間経過を表現するのに便利だからつい使ってしまう。シャツやらの方は、同じ色に染まるってのがエモいじゃないですか。


「と言うか部長、前書いた他のも読んでくれたんですか?」

「そ、それは。ほら、一応部長ですからっ」


 と部長は髪に手をやって目を泳がした。最近部長の中で流行っているツンデレムーブだ。言葉の最初をちょっと噛んで、最後に小さな「っ」をつける。あまりやると飽きられてしまうので、ここぞと言う時の為に、もう少し温存した方が良いかも知れない。


「青時雨、花時雨、花緑青が連発するとしつこいかな。付け焼刃感もあるしポエム感もあるし」


 ぐっさり。これは最近自分でも思っているところでもある。でもなぁ、例えば青って言ってもいろんな青あるし、雨って言ってもいろんな雨あるし。悩ましいところだ。


「晴れパート、雨パートが交互に来たのは良かったと思う」

「雨なら雨で統一した方が良かったかな、とも思ったんですが、見返したらそうなってましたね」

「偶然?」

「全くの」


 ふむ、と部長は手を組んだ。しつこいようだが会話文の中断である。こういう所に小粋な文章をはめられる人は、ホントにセンスと知識があって素晴らしいな、と思う。というところでよし、会話再開。


「自分でここは良かったと思うところはある?」

「そうですね。携帯端末から文庫本になったところで、場面転換になったのは良かったかなぁ。あとはラストのベンチのくだり、伝わるか分からないけど夏物語が春物語になったあたり。最後の最後はまあまあ締まったと思います」


 いっぱい喋ったね、と部長がにやにや三日月の目で笑う。ひとつのカッコの中でどのくらいまで喋っていいのか、実はまだよく分かっておらず赤面してしまった。


「まあ、とりあえず。書けないって言ってたのに頑張ったね。イマジナリー文芸部をご覧のイマジナリー部員の皆さんもこうした方が良いよとか、ここは良かったよなんて所があったら、コメントどしどしお願いしますね!」


 部長はそういっぱい喋って、ここからは見えないイマジナリー部員たちにぺこっと頭を下げた。

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