自堕落ダークサイドメイドのその場しのぎ。

新佐名ハローズ

第1話 とりあえず生っての、やめませんか?

 

 

「……ハイハイ、んな言われんでも解っとうがな。会館前やろ? テキトーに潰したらそっち行くて。うん、ほなね~」


 手を払う仕草で視界の片隅に浮かんでいた通話表示を消し、カリル・フェインは先刻まで人だったものを気にした様子もなく建物の奥へと再び進み始めた。


 紅い瞳に同じく深紅のアイシャドウ、色が抜け落ちたようなセミロングの白髪を無造作に流し、人族とは違う少し長く尖った耳が覗いている。


 一見シスターにも見える黒基調のメイド服を身に纏い、何の気負いもなく歩く姿はまるで散歩でもしているようだが、周囲には派手に飛び散る血痕と夥しい数の倒れ伏す男共だったもの。


 時折自棄気味に叫びながら向かってくるを蝿でも叩くように潰し壁の染みにしつつ、彼女は廊下を進んだ先に見える重厚そうな扉を不可視の衝撃波で粉砕。


 扉前に待ち構えていた幾人かを巻き込んで部屋の奥まで吹き飛ばし、力なく床へ落ちてゆく様を間近で見せ付けられた館の主は、情けない声を上げながら豪奢な執務用の椅子から滑り落ちるように腰を抜かして壁際へ後ずさった。


「ななな、なんっ――ぐえっ!」


 何かを言おうとするその男を軽々と片手で引き寄せ、間近に迫った紅い瞳に現れた円環の術式陣が回転したのを相手が認識した瞬間。


「ああぁあががががばばばばぼぼぼぼごぶぐぅ゙ぅ゙ぅ゙ぅぅぅっ……」


 狂ったように眼球が動き回ってから滂沱の如く血が吹き出し、意味の無い言葉を発していた口からは血混じりの胃の内容物らしき物や果ては臓物の一部を吐き出しながら、男は一瞬で絶命。


 同時に男の胸元辺りから飛び出していた、折り重なって圧縮された文字列の塊のようなものを空いた方の手で無造作に掴み、紙屑を潰すように握ると――


「大した情報データ有らへんやん……しょうもな」


 玩具に興味を失って手放す子供のように男を放り出し、凄惨な事件現場と化した屋敷から血塗れのまま……いや、青白く揺らめく炎が全身の様々な汚れや染み付いた血痕をまるで何事も無かったかのように一瞬で消し去った彼女カリルは、堂々と正門から外へ出て人混みの集まる方向へと消えていった。

 

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る