駄目だな……オレ

 ――……時は少し遡る。


 オレはメルナの後ろでみていた。


「た、倒せたわっ!」

「そうだな……最初にしては上出来だ」

「ありがとうございます。そういえば落ちてるのって魔石よね?」


 そう言いメルナは満面の笑みを浮かべる。


 綺麗なうえに可愛い……駄目だ……堪えられない。でも……今の関係が壊れるのは嫌だ。


 そう思いながらオレはメルナに説明した。


「ああ、魔物は魔石やアイテムなどを落とすんだ。でも魔獣は落とさない。その代わり毛皮や肉を解体すれば金にすることができる」

「……という事は魔物って魔法でつくられたのですか?」

「多分そうだと思う。ただ誰がつくったのか分からないけどな」


 そう言うとメルナは首を傾げる。


 オレ……何か悪いこと言ったか?


「誰がつくったって……神さまですよね?」

「…………」


 そっちか……でも神って……。


「神か……そんなものが、この世界に存在するのか? オレは絶対に信じない」


 そんなもの……居る訳がない。もし居るなら…………オレはこんな運命を辿っていないはずだ。


「そうですね……信じるか否かは人それぞれですもの」

「メルナ? お前は信じるのか」

「ええ、信じますわ。だって、こうやってグランと出逢えたのですもの」


 メルナはオレの考えとは違う。でも……確かにメルナの言う通り偶然だとしても出逢えた。

 でも……それは神のお陰なんかじゃない。


「…………そうだな。神が居るかどうか分からない……だが、メルナの言う通りかもしれない」

「グラン、少しは信じました?」


 神の存在は信じられない。でも……オレにとっての女神はメルナだ。


「メルナ…………」


 そう思った瞬間オレは、メルナを抱きしめていた。


「な、何をするのですか?」

「黙っててくれ……少しの間だけでいい、こうして居たいんだ」


 オレは……何をしている? でも堪えられない……メルナが愛おしくて。だけど、これ以上先に進めば関係が壊れる。

 好きだ。ただ、この言葉を発したら……どうなる? 

 メルナから、いい匂いがする……体が熱い。息苦しい……首筋ぐらいならキスしてもいいか?

 でも……それで嫌われたら、どうする? だけど……無理だ。メルナが、なぜかオレの腰に手を回してきた。

 それだけじゃない……オレの首と肩の間にメルナの顔が…………唇があたってる。これって……いいってことなのか?

 嫌がっている様子はない。でも…………。


「キャアー、グラン首筋に虫がぁ~!?」


 そう言いメルナはオレを突き飛ばした。

 そのせいでオレは尻餅をつき一瞬、何が起きたのか分からず呆然とする。

 その後オレは我に返った。


「……虫?」


 そう言いオレは首筋の虫を払い除ける。


「なるほど……」


 ムッとしオレは、その虫を渾身の力を込めて足で踏みつぶした。


 う……クソッ、なんで間が悪いんだ! って……やっぱり神なんか信じるもんか。


 そう思いオレは泣きそうになる。


「グラン……あーえっと、ごめんなさい……突き飛ばしてしまって」

「そ、それは……いや大丈夫だ。オレこそ、いきなり抱きついて悪かった」

「いえ……それは問題ありませんわ。もしかして何か嫌なことでも思い出したのですの?」


 そう言われオレは返す言葉に困った。流石に襲いたくなって抱きしめたなんて言えない。


 なんて弁明すればいいんだ! いや……どう誤魔化せばいい?


 そう思いオレはメルナをみつめる。


「グラン、言いたくないなら大丈夫ですよ。誰だって言えないことの一つや二つありますもの」


 メルナ……やっぱりオレにとっての女神はお前だ。いや神が本当にいたとしても、オレはお前しか認めない。


「すまない。そうだな……」

「そうですよ……それよりも、時間がなくなりますわ」

「そうだな。じゃあ次は魔法の攻撃の確認だ」


 そう言いオレとメルナは違う場所へと移動した。

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