「強化ポーションとA級試験」②
その日はそのままダンジョン探索に挑んだ。
スキル強化ポーションの予備はなかったので、本来の予定通り順調に進み、目的を達成するなり帰路につく。
クランルームに戻ると、風呂やらなにやらを済ませ、盟主特製の夕飯にありつき、疲れからそのまま解散となった。これ幸いと、残りのハロを全投入してスキル強化ポーションを2つ精製したコトワリは、力尽きてベッドで気絶する。
ティトンによって話題が掘り返されたのが翌日の昼時。
「コトワリってヒーラー枠は駄目なの?」
昇級試験を受けるつもりだと話すなり仲間たちは背中を押してくれたが、Aランクともなると職業毎に試験も分かれていて、クリアできそうな職種を選ぶところから難題だ。コトワリはサンドイッチを飲み込んで伏せ目がちに答える。
「ヒーラーの合格条件は【10人以上のパーティーを死なせることなく1時間耐久する】でして…持っていけるポーションだけではもたないんですよ」
「ああ、確か条件に「1日以上背負っていられる量のアイテムのみ持ち込み可」ってのがあったな」
「すみませんね、脆弱なもので」
責められたわけでもないのにクエルクスの眼光から逃げたコトワリの視線を、イロハがゆるく追いかけた。
「濃縮ポーション薄めて使うとかも無理なのか?」
「①「戦闘中に一滴ずつ使ってください」という指示は基本無視されます。それどころではないですからね。②予め水に混ぜて薄めておく…という手段は、環境下によっては使えません。ティトンさんのような便利な方が必ずしもいるわけではないので」
「そっか。僕達とならできても、他のパーティーでもできなきゃ駄目ってことか」
難しいね、とティトンが呟くのにコトワリも頷いて答える。それぞれが唸る中、イロハが話を繋いだ。
「そうなると…やっぱりサポーターか。どんな試験だっけ?」
「自分をターゲットとする敵を、味方をサポートしながら倒す」
手元の説明書を読み上げたコトワリは、それぞれが内容を飲み込む間にアールグレイティーを一口。ほっと息を吐いた後にティトンが口を開く。
「うん…うん…なるほど。味方はコトワリのことサポートしてくれるんだよね?」
「いいえ。分かりません」
「えっ」
「パーティーはその日集まったB級以下のアルバイトらしいな」
クエルクスが答えると、ティトンがジャガイモ片手に額に手を当てた。
「即席かぁー」
「まあ、条件は他の役職も同じだがな」
「アタッカーは魔獣の単独撃破だから知らなかったよ」
「つまり、コトワリさんは自分で自分を守らなきゃなのかー」
アロが朗らかにドーナツを齧るのを横目に、イロハが小さく肩を竦めて問う。
「とはいえ、事前に打ち合わせくらいは出来るだろ?」
「5分だけな」
「5分かぁ…」
「ポーションの説明だけでいっぱいいっぱいですよ」
「誰か一人盾になってもらうとかー?」
「味方殺しちゃ失格だろう…」
「厳しいなぁ」
「あ゛?試験で死人出す方が問題だろ?」
会話が一周すると、そこにはため息だけが残された。それぞれが咀嚼しながら横目にコトワリを見据え、一番先に口を空にしたクエルクスが問う。
「で?勝算は?」
もう一口食べようと開けていた口を一度閉じて、コトワリは思案してから答えた。
「午前中…思いつく限り全て試しましたが」
会話の間も彼の左手はポーションを精製しているらしい。残りのサンドイッチを口に押し込む右手頸で、ピンク色のハロが淡く輝いている。
「3割…ってところですかね」
短い間。なんとも言えない空気を吹き飛ばしたのは、皿に山盛りだったジャガイモをいち早く平らげたティトンだ。
「じゃあ、特訓だね!」
立ち上がり、にこやかに手を差し出されたコトワリは、口の中の物を処理しきれぬままおかしな声をだす。
「は?」
それは抗議にも近かったが、他4人の意見が一致してしまっていたため、あえなく無視された。
片付けを終えるなり庭に引きずり出されたコトワリは、仲間に囲まれて居心地悪そうにする。
「さあ、さっさと見せろ。やれ見せろほれ見せろ」
クエルクスが急かすと、諦めたのか覚悟を決めたのか、舌を出してから片手を広げた。
「ではまず、ポーションを飲まずに説明しますと…」
「ゴタクはいい。やってみろ」
遮ったクエルクスが示したのは練習用のマトだ。コトワリはとぼとぼと背を向けて指定位置に付く。
カバンからフラスコを出し、指先で中身を宙空に浮かべてマトを狙う動きをした。4人がおお!と見守る中、コトワリが放った(??)水はへろへろと移動して地に落ちた。その間、実に10秒。
「………」
「………コトワリ?」
「笑ってくださいよ。これが僕の全力です」
「なにがしたいのか分からんが?」
「だからご説明しますといったじゃないですか最初に…はぁ…」
盛大なため息と共に仲間の輪に加わったコトワリは、先程のフラスコを持ったまま話を始める。
「ぼくのスキルは精製。そのおまけとして多少水属性があるらしく、水を操ることはできます」
「知ってる」
「お茶、おいしーよ?」
「はい。普段紅茶を淹れるのに大変役立ちますね」
「戦闘にはつかえそうにないが?」
「ですから…」
情けなさに膝をつきそうになるのを堪え、コトワリは自作のスキル強化ポーションを飲んで言った。
「せめて速度を上げられないか、試してみました」
もう一度同じ位置に立ち、同じ動作で指先に浮かせた水を誘導する。先程とは明らかに、水の流れが違う。コトワリの指に吸い寄せられるように、後ろに流れ、勢いを付けて前方に放たれた。
「おー」
「イロハの矢ほど速くはないけど」
見事水が命中したマトを見物しに走る3人。最後に到達したクエルクスがくるくる見回して苦言を呈す。
「威力も足りんが?穴どころか凹みもしてないぞ」
「そこはその、練習中ということで…」
ギクリと目を反らしたコトワリは、背後で顎を擦るイロハに気付いて舌を出した。
「でもその水がポーションだったら」
「あ」
イロハがコトワリのビーカーを示して呟くのに、ティトンがハッとして手を叩く。
「毒、やだー」
「せせこましいな」
「ええ、ほんとうに。嫌になるくらいではありますがね」
逃げるように駆け回るアロと、頭を掻いて苦笑するクエルクスと。2人の反応にため息を吐くコトワリを見て、ティトンが両手を拳に変えた。
「よし、木や岩、貫ける威力にできるようがんばろ?コトワリ」
「いえ、流石にそれは」
「スピード重視ならいけるんじゃないー?」
「誤射したらどうするんですか」
「練習ならいくらでも付き合うぜ」
「いくらでもは困りますから」
「ハロが持つ限り働け?」
満面の笑みで向かってくる4人から逃げられるはずもなく。
コトワリはその日、3回ほど気絶した。
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