は か い

千織

第1話 あああの投稿

上空に円環。


空が切り取られたか。


それとも指輪のような金属か、紐か、わからない。


円の中。


さらさらと白い? 光?


が、


降り注いでいる。


ずっと、ずっと。


山に積もり、森に侵入し、町へ。


人は、近づいて、触れた。


粉? 解けない雪? やっぱり光?


人々は不思議がり、互いに顔を見合わせた。


触れた指が透明になって砕ける。


押し寄せたそれに濡れた足も、透明になって砕ける。


街へ街へ。


塀を砕き、家を砕き、ビルを砕き。


人々を飲み込んで。



円環が。


今も。


降り注いで。


絶え間なく。


……


…………


………………



「延々とこの調子で投稿されてるんです」


Aはカクヨムの画面をBに見せた。

毎日投稿チャレンジが始まってから『あああ』という人物が奇妙な詩『円環』を投稿し始めた。


最初に投稿された翌日、詩が記したような円環が本当に現れた。

円環の様子は詩の通りで、この奇妙な詩は「予言の詩」と呼ばれ、ニュースにも取り上げられた。

誰が書いているのかもわからず、話題になっても内容は変わらず淡々とつづられ、気まぐれなタイミングで投稿される。


円環による被害で、村が一つ消えた。

海の津波、山の津波に合わせて、『空の津波』と呼ばれるようになった。


「どうしますか?」


AがBに聞いた。


「世の中には、変わった感性の輩もいるもんだ」


Bはパソコンの前に座り、Aの作ったカクヨムアカウント『うんうん』で投稿を始めた。


………………


…………


……


それ、は、深い闇に落ちる。


細い筋が、幾筋も。


あるいは、カーテンのように。


ミルクがテーブルの上を流れて、床にこぼれ落ちるように。


まるで、谷底から呼ばれて答えるかのように。


……


…………


………………


「ニュース、見てください」


AがBにスマホを見せる。


『突然の地割れ! 空の津波を大地が飲み込む』


「あの厄介な流れ出てるやつ、うまく吸い込まれているみたいです」


「あ、そう。うまくいったね」


Bはそう言って椅子の背もたれに寄りかかり、背伸びをした。


「あれ、また『あああ』が投稿しましたよ」


タイトルは『永遠』。


………………


…………


……


生まれて


消滅する


生まれて


消滅する


生まれて


消滅する


永遠に、


永遠に。


……


…………


………………


「どういう意味ですかね?」


Aが詩を声に出して読んだ。


「あれ? なんかフォローしてくれた人がいるよ」


Bはうんうんのフォロワーのページを開いた。



フォローされています。


あああ


いいい


ううう




「マジかよ」


Aが言った。


それぞれのページを見にいくと、『いいい』には草木が急激に伸びて街を覆いつく詩、『ううう』には海に氷の柱が立ち海面が凍りついていく詩が載っていた。



速報が入る。



「……Bさん、頑張って」


「俺、中学の時の国語3だったんだよなぁ」


Bは遠い目をした。

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