14.お茶に誘うのが精一杯
シルビアが転移魔法で東の草原に行くと、ガンツが魔物と戦っていた。善戦しているが数が多く、このままでは危険だ。
シルビアは魔法でガンツの回復を行い、急いで声をかけた。
「ガンツ様!」
「シルビア様?! どうしてここに!」
「第三騎士団の皆様が、ガンツ様を心配してお兄様に報告して下さったのです」
「そうか……みんなが……ありがとうございます。しかし、私ひとりで戦えと命じられましたので……」
騎士になってからガンツは言葉遣いを改めて、一人称も変更していた。最初は油断すると素が出ていたが、半年間で丁寧な言葉遣いにも慣れてすっかり物腰の柔らかい男になった。
物腰が柔らかくなったガンツの内面は変わっていない。それなのに穏やかな口調になったガンツをリオン隊長は舐めている。無茶な命令をしたリオン隊長は今頃、国王と王太子の前で恥ずかしい言い訳を披露している最中だ。
「ガンツ様。こちらをご覧下さいませ」
シルビアが見せたのは、国王が書いた命令書だ。
「いついかなる時でも……シルビア様が私の仕事に協力して構わない……これは王命だ……? あの、これは一体……?」
「ガンツ様の腐った上司……失礼、リオン隊長よりもお父様の命令が優先されます」
「そう、ですね。当然です」
「ここに書いてある通り、わたくしはガンツ様のお仕事に関わって良いのです。たとえ、隊長や騎士団長の命令があっても、王命が優先されます。ガンツ様がおひとりで戦う必要はありませんわ」
「理解しました。実はとても困っていたのです。ありがとうございますシルビア様」
ああもう、そんなに礼儀正しくしなくて良いのに。わたくしは、貴方の妻になるんだから。
シルビアの心に気付かないガンツは、すぐに魔物に向き合う。シルビアの強さを分かっているガンツは、彼女を守ろうとしない。
信頼されていると感じたシルビアは、全力で魔法を使った。
「これで、逃げられないわよね」
東の草原に、巨大な結界が現れた。
突然閉じ込められた魔物達は驚き、戸惑い、知能のあるものは逃げようとした。
結界に触れた魔物は黒焦げになり、消えた。
「これは一体……」
「わたくしが作り上げたオリジナルの結界魔法です。この結界の中には、魔物と、ガンツ様とわたくししかおりません。結界に触れた魔物を攻撃し続けます。強力な魔法を使っても、剣を振り回しても問題ありませんわ。草原にいる動物達は結界に入っておりませんので、存分に戦えます」
「なんと……素晴らしい! これは人にも効くのですか?」
「結界に触れると少し痛みはありますが、傷つきませんので死んだりはしません。魔物は消滅しますわ」
「悪党を懲らしめるのにも使えそうですね。さすがシルビア様です! こんなに見事な結界、初めて見ました。さぞかし研究に時間がかかったでしょう」
「ま、まあ……それなりにかかりましたわ。さ、さあ! さっさと倒してしまいましょう。結界の端に追い込めば、魔物を楽に倒せます。先ほどお伝えした通り、多少結界に触れても痛みがあるだけで怪我はしませんわ」
「承知しました! では、私はこちら側から追い込みますのであちら側をお願いします」
この人は、当たり前のように自分を頼ってくれる。嬉しくなったシルビアは、少しだけ勇気を出してみた。
「はい! さっさと終わらせて帰りましょう。帰ったら……その、お茶でもいかがですか?」
モジモジと下を向きながら小声でお茶に誘うシルビア。
ガンツは、好きな人にお茶に誘われて有頂天になった。
「もちろん喜んで。さっさと終わらせましょう!」
張り切ったガンツは、物凄い勢いで魔物を追い込んだ。シルビアが慌てて後に続く。
結界の力もあっただろう。
だが、騎士団が丸一日かけて行う魔物の討伐をたった2人で1時間ほどで成し遂げてしまった。
あまりに早く帰還した妹達に驚いたフィリップは、東の草原に転移して更に驚いた。
討伐してもすぐに魔物が湧く東の草原は、動物達の楽園に変貌を遂げていた。
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