11.兄の思惑

真っ赤な顔で固まっているシルビアはとても愛らしい。


大騒ぎになる観客を眺めながら、フィリップは内心ほくそ笑んだ。


『フィリップ、楽しそう。ワタシたち、役に立った?』


フィリップのそばに寄り添う精霊が、念話で話しかけてきた。


『ああ、とても役に立ったよ。ありがとう。まさかいきなりガンツがシルビアにプロポーズするとは思わなかったが、いずれこうなっただろうから問題ない』


『ガンツがシルビアに惚れなかったらどうするつもりだったの?』


『考えてなかったな。シルビアに好意を向けられて好きにならない男がいるのか?』


『相変わらずだねぇ』


クスクス笑いながら、精霊達があちこちに散って行った。


『もっとガンツの事、調べてくるね!』


『ありがとう』


『フィリップはいつもお礼を言ってくれるから好き!』


フィリップが多くの仕事をこなせるのは、精霊達の協力があるから。

精霊達が離れたら自分を省みろ。そうガンツに教えられたフィリップは精霊達と共に過ごし、自分の本音を隠さず伝え続けた。


多少腹黒い事も民のためならやると精霊に伝えた時、フィリップは精霊が離れて行く覚悟をしていた。


精霊達が離れるなら、自分は間違っているのだから正さないと。そう思っていた。


だが、精霊達は正直に話したフィリップを気に入り、ますます懐くようになった。


こうして、精霊の加護を受けた腹黒王太子が誕生した。精霊達は、フィリップが苦しみながら仕事をしていると知っているから彼の為に情報を集める。


ガンツを見つけたのも精霊達だった。


国に入った瞬間、突然現れたフィリップを簡単に受け入れて大きくなったと豪快に笑うガンツは、以前と全く変わらなかった。


フィリップはホッとした。


彼なら、大切な妹を任せられる。


ガンツに恋人や婚約者、妻がいないと確認したフィリップは、求婚者の件を伏せて妹と戦って欲しいと頼んだ。


強さを求めるガンツはあっさりとフィリップの提案を受け入れ、この場に現れた。


挑戦者が求婚者になるなんて、ガンツは知らなかったのだ。


恩人相手に誠意がなかったかもしれないと眉を顰めたフィリップに、常に寄り添う風の精霊が問いかける。


『フィリップ、どうしたの?』


『ガンツを騙したみたいで、ちょっと心苦しい』


『正直に謝ったら、ガンツは笑って許してくれるよ』


『そうだな。後で謝るよ。これでシルビアは初恋の人と結婚できる。冒険者と王族が結婚するには、こうするしかないからな』


『でもガンツ、シルビアに勝てる?』


『勝つさ。彼はそういう男だ』


『1日しか会ってないのに』


『1日会えば充分だよ。シルビアはずっと、ガンツが好きだった。本人すら気付いていないけどな。あの子の心を捉えて離さないくらい、ガンツは魅力的だ。他の女性が彼の魅力に気が付かなくて良かったよ』


『ガンツはね、鈍いの。すぐフラフラどっか行っちゃうし、好きになった子もそのうち諦めるみたい』


『そうか……またどこかに行かれては困るな』


フィリップの心配事は、すぐに解決した。フィリップの謝罪をすぐに受け入れたガンツは真剣な顔で言った。


「頼む、騎士になる方法を教えてくれ!」

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