4.兄の気持ち
「シルビア……いた……良かった……無事で……!」
「どうしてここへ?」
「いつもより早く目が覚めたら、精霊達が教えてくれたんだ。シルビアが魔法で城の外に出たって……それで……今戻ったって……ありがとう……帰って来てくれて……」
ボロボロと涙を流す兄は、心からシルビアを心配していると分かる。
「あの人の、言ったとおりだ」
兄貴は、お前の事が好きだぜ。初めて会った名前も知らない男の言葉は、長年積み重なったシルビアの悩みを溶かしてくれた。
「あの人?」
「はい。森でワイバーンを倒す冒険者に会ったんです」
「ワイバーンだと?!」
「ええ。とっても強かったです。美しい戦い方でした。わたくしも、あんな風に強くなりたい」
「そうか……そうか……! なら、また俺と訓練をしよう!」
「良いのですか?」
「もちろんだ! シルビアは俺より強いから良い訓練になる」
「お兄様は……わたくしを疎ましく思っておられるのでは……」
「そんなわけないだろう! 誰だそんな嘘をシルビアに吹き込んだヤツは! ……もしかして、訓練に参加しなくなったから? 違うんだあれは……兄として情けなくてだな……ごめん……誤解させて……」
しょげる兄を見ているうちに、シルビアの心がどんどん明るくなっていく。
「わたくし、お兄様が大好きですわ」
大事な人には、ちゃんと本音を言え。彼の言葉を思い出すと、普段は言えない本音もちゃんと口にできた。
「俺もシルビアが大好きだ!」
兄は力強く、妹を抱きしめた。
「わたくし、お兄様のお役に立ちたいのです。強くなって魔法を覚えて、お兄様が王になった時……お兄様を支えたいんです」
「ありがとうシルビア……! 俺もシルビアに負けないように頑張るよ。お互い本気で、切磋琢磨しよう。それが、国のため……民のためになる。シルビアは優秀だ。どんどん俺を追い抜いてくれ。俺は必死で、シルビアを追いかける。だがな、困った時はちゃんと俺を頼ってくれ。シルビアは俺の大事な妹なんだから。城を抜け出したいなら、俺が協力してやる。だから……黙っていなくならないでくれ……」
兄の必死な様子に、自分がどれだけ愛されていたか分かったシルビアは心に抱えていた重い荷物を全て放り投げて、思いっきり兄に抱きついた。
「お兄様ありがとう。もう黙っていなくならないわ。あのね、わたくし……今夜もう一度だけ城を抜け出したいんです」
「俺もついて行って良いか?」
「分かりました。その代わり、わたくしを男として扱って下さい」
シルビアは、冒険者と交わした約束を兄に話した。
「シルビアを男と見間違えるなんて……!」
「そこ、怒るところですか?」
「シルビアは可憐な少女だぞ! 男と間違えるなんてありえないだろう!」
「お兄様の服をお借りしておりましたので。これ、お返ししますわ」
「いくら男物を着ていても間違えたりしないだろう!」
怒る兄を宥めているうちに、シルビアは自然に笑えるようになっていた。
「わたくしが女と分かれば、彼は修行をつけてくれないかもしれません。だからお願いです。彼の前では、わたくしを男でいさせて下さい!」
今まで一切我儘を言わなかった妹の初めての願いを叶えたい。兄は渋々、妹の願いを受け入れた。
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