富士の高み

ヤマシタ アキヒロ

第1話

  富士の高み



満月のかかる頂上を目指し

リュックを背負った蟻たちが

互いの光を手がかりに

一歩一歩登って行く


ジグザグに張られたロープ

踏みしめる岩や瓦礫

白みゆく空を

斜めに切り裂く稜線


呼吸は苦しくなり

筋肉は限界に達する

一歩一歩が自己最高到達点

それでもさらなる高みへと


もうそれ以上何もない場所

星空に手がとどく場所

神のおわします領域

蟻たちは頂上へたどり着いた


はるかに

来た道を振りかえり

深く大きく

ためいきをつく


見下ろす下界

波打つ雲海

ほとばしる曙光

照らされた顔と顔


刻一刻と

この星の輪郭を染めていく

朝焼けのグラデーション

いま幻と現実が一つになる


そのとき

われわれの存在そのものが

宇宙との真っすぐな

つながりをもつ


丸みを帯びた地平線

大地は雲におおわれ

百年の孤独はついに

神のみむねに抱かれる


そこは宇宙への入口

めくるめく時の中で

生まれかわった蟻たちは

せいいっぱいの伸びをした


             (了)

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