第25話

「千夜子さー……俺んち住む?」



身体の力も気力も抜けた私を抱えながら、またこの人は突拍子もない事を言い出す。



「やですよ。」


「だってめんどくね? 行き来すんの。」


「先輩がこういう事をやめてくれれば何も面倒じゃなくなりますよ。」


「あァ? 断るね。」



なんでよ……。



「別に、私である必要なくないですか? 居ますよね。私より全然スタイル良い、大人っぽい人とか。」



それこそこの前見かけた人とかね。



「あー……この前の奴?」



やっぱり気づいてたんだ。目合ったもんね。



「何? ヤキモチ?」


「純粋な疑問です。私がまだ初雪さんの婚約者だから、ですか?」



そうだとしても、そこにこだわる理由は分からない。



「お前よりスタイルの良い大人っぽい奴ねー……。いるね。それなりに。」



私の発言には触れず、あずき先輩は言う。



「無性に殴りたくなってきました。」


「やってみ?」



そうやって悪戯っぽく笑う。女の敵め。いつか本当に殴るからね。一体何人と関係を持ってるんだか。



「うん、胸とか尻大きいのもいるね。」



 いつか絶対に殴るからね。



「でも俺の手に収まっちゃうのも可愛くて好きだな。」


「ひゃあっ!?」



先輩の手が私の胸を包み込む。



「なんでわざわざ触るんですか!?」


「イイなぁ、と思って。もっかいイケそう。」


「もう疲れました……」



この節操無し。万年発情期の色魔。



「で、どーする?」


「断りましたよね……」


「合理的じゃん?」


「下心しかないんだよなぁ……」



睡魔に負けつつある私は、横たわって先輩の背中にある太陽のタトゥーを眺める。背中に左腕に、随分賑やかな身体だなぁ。



「ここ来ればバイトもしなくて済むだろー? 別にお前一人増えるくらいどーってことないし。」



養ってやるよ、なんて本気か嘘か分からない口調で言う。



「それはさすがに……いくらあずき先輩相手でも申し訳ないですよ」


「随分引っかかる言い方だな」



甘い煙草の匂い。他にこの匂いの煙草を吸ってる人に会ったことないな。



「な、来いよ千夜子。」


「……他の女の子とかもここに来るんじゃないですか?」


「来ねーよ。基本家で抱かないし。」


「ああそう……」



瞼が重い。思考が回らなくなってきた。



「来るとしたら弟くらいだな。」


「兄弟いるんですね……」


「年中反抗期のかわいい弟が一人な。」



お兄ちゃんだったんだ。意外と面倒見がいいのもそのせいかな?


今目を閉じたらそのまま寝れそうで、会話を続けるのが面倒になってくる。



「だからさ、来いよ?」


「……もう。…………分かりましたよ……。」



いよいよ面倒になった私は、考える事を放棄して瞼を閉じた。

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