エルフの村と発展の代価

古橋レオン

第一章:悪夢

 土砂降りの雨が降っていた。轟音とともに山の斜面が崩落した。疾駆する巨獣のような土砂の塊はソッシ・ルーデ村を瞬く間に飲み込んでいった...


 ルミアは目を覚ました。心臓は狂ったように脈打ち、体は全身汗で冷たくなっていた。今起きたばかりだというのに、心も体も疲れ切っていた。

「今の...なんだったん、だろう?怖かった、なぁ...」

 一言呟き大きなため息をつくと、ルミアはベッドからゆっくりと体を起こし、冬の朝日の差し込み始めた廊下を玄関へと向かった。

 外へ出てみると、朝早いというのに、ローダスが森へ出かける準備をしていた。

「お兄ちゃん、また木を切りに行くの?」

 ルミアは尋ねた。

「おお、ルミア、おはよう。早起きだな」

 ローダスは振り向くと笑顔で答えた。だが彼はすぐに何かを察したように眉をひそめた。

「どうした、ルミア、そんな疲れた顔して?朝からお前らしくないな。なんだ、怖い夢でも見たのか?」

「お兄ちゃん、また木を切りに行くの?」

 ルミアはまた尋ねた。

「ああ、そうだよ。森に行って木を切れば、この村の発展に貢献できる、からな」

 ローダスは微笑んで頷いて見せた。それでもルミアの顔は曇ったままだった。彼はまた微笑むと、ルミアに歩み寄り、少し体をかがませて、優しく語りかけた。

「俺のことは心配するなよ、ルミア。もう森の魔物たちは三千年も俺たちエルフの前には姿を現してない。森に行ったって危険なことは何もないさ。それに、いざとなれば、この斧で自分の身ぐらい守れるしな」

 ローダスはいたずらっぽく笑って、背中の大きな斧を指さした。ルミアもつられて少し顔がほころんだ。

「それに、ルミア、今年で何歳になるんだっけ?」

「362歳だよ」

「そうだろう。362歳なら、お前も立派なエルフじゃないか。今日は父さんも母さんも俺も忙しいけど、一人で留守番、できるな?」

 兄の暖かな声に、ルミアは小さく頷いた。

「よし、さすが俺の妹だ、しっかりしてるな」

 目を細めながら言うと、ローダスは嬉しそうにルミアの頭を撫でた。そして、背筋を伸ばし、妹に別れを告げた。

「じゃあ、行ってくるよ。今日もちょっと寒いけど、元気でな。あと、魔法の勉強は程々にするんだぞ」

「うん、いってらっしゃい」

 手を振って見送る妹に、大きく手を振り返すと、ローダスは森の方へと向かった。兄の姿が木々の合間に消えると、ルミアはうつむいて家の中へ戻っていった。

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