第54話 真実を追う者たち

ラボでの解析が進む中、奈緒美たちは村全体が彼女たちに対して敵対的になっていることを強く感じていた。雪に覆われた村の冷たい風が、外の世界からの遮断をさらに強めているように思えた。村を追い出される前に、何としてでも真実を掴まなければならないと、奈緒美は決意を固めていた。


「山川一郎が隠している真実を掘り起こすためには、私たちが持っている情報をさらに深掘りする必要があるわ。」奈緒美はラボのホワイトボードに書き込みながら、チーム全員に話しかけた。「私たちが集めた証拠を元に、さらに具体的な調査を進めましょう。」


高橋剛は、明美が録音した音声データの解析を続けながら、デジタルフォレンジックの技術を駆使して、山川一郎の過去の行動履歴を調べていた。「奈緒美、この音声データの周辺に他にも記録が残っていた。明美さんは、どうやら別の場所で山川一郎と会っていたらしい。」


「別の場所?」奈緒美は興味を引かれながら高橋に近づいた。


「そう。ここからそう遠くない場所に、廃屋があるんだ。」高橋は地図を広げ、廃屋の位置を指さした。「そこが、山川一郎と明美が最後に会った場所だと考えられる。」


「それじゃあ、そこに行ってみるしかないわね。」彩が決意に満ちた表情で言った。「でも、また村の人たちに妨害されないかしら?」


「それでも行く価値はある。」奈緒美は断言した。「この廃屋が、事件の真相を解明するための重要な手がかりになるかもしれない。」


チームは廃屋に向かう準備を整え、雪深い道を進んでいった。寒さが骨の髄まで染み込む中、彼らは黙々と歩みを進めた。村から少し離れたその場所は、静寂に包まれており、外界から完全に隔絶されたかのようだった。


やがて廃屋にたどり着いた奈緒美たちは、静かに扉を押し開けた。中は薄暗く、長い間放置されていたことを感じさせるほこりとカビの匂いが立ち込めていた。壁には古びた家具がところどころ残されており、かつてここで誰かが生活していた痕跡が薄っすらと残っていた。


「ここが…山川一郎と明美さんが最後に会った場所なのね。」彩は辺りを見回しながら呟いた。


「この場所に何かが隠されているはず。」奈緒美は慎重に部屋を歩き回り、注意深く調査を始めた。「明美さんがここで何を見つけたのか、それを探し出さなければ。」


二人は廃屋の中を調べ、古びた家具や書類を一つ一つ確認していった。やがて、奈緒美は床板の隙間に何かが隠されているのに気づいた。彼女は慎重に板を外し、中に隠されていた小さな木箱を取り出した。


「これが…手がかりになるかもしれないわ。」奈緒美は木箱を開け、中に収められていた古い手紙と写真を取り出した。


「これは…山川一郎の家族の写真?」彩がその写真を見つめながら言った。「そして、この手紙は…」


二人は手紙を読み進めると、そこには村でかつて起きた事件についての詳細が記されていた。山川一郎の家族が、村を守るために行った行為と、その結果として生まれた悲劇が赤裸々に書かれていた。その内容は、村の平穏を守るために行われた暗黙の了解の裏に隠された、冷酷な現実を浮き彫りにしていた。


「この手紙が全ての真相を物語っているわ。」奈緒美は手紙を握りしめながら言った。「山川一郎の家族は、この村のために多くの犠牲を払ってきた。でも、その犠牲は決して許されるべきものではなかった。」


「これで全てが明らかになるのかしら…」彩は複雑な表情を浮かべた。「でも、この真実を知って、村の人たちはどうするの?」


「それは、私たちにもわからない。」奈緒美は静かに答えた。「でも、私たちはこの真実を隠すわけにはいかない。明美さんが命を懸けて見つけた真実を、無駄にするわけにはいかないのよ。」


その時、廃屋の外から足音が聞こえた。奈緒美たちは一瞬緊張し、耳を澄ませた。その足音は徐々に近づき、廃屋の中に響き渡った。


「誰かが来る…!」彩が声をひそめた。


奈緒美は咄嗟に木箱を隠し、身構えた。ドアがゆっくりと開き、冷たい風が一気に吹き込んできた。そこに立っていたのは、険しい顔をした山川一郎だった。


「やはりここにいたか。」山川一郎の声は低く、抑えきれない怒りが滲んでいた。「ここで何をしている?」


「真実を探していただけです。」奈緒美は静かに答えた。「あなたが隠そうとしている真実を。」


「ここから出て行け。」山川一郎は冷酷に言い放った。「これ以上、村のことに首を突っ込むな。」


「あなたが何を隠しているか、私たちはもう知っています。」奈緒美は一歩も引かずに言った。「そして、その真実を公にするつもりです。」


山川一郎は奈緒美の言葉に一瞬表情を変えたが、すぐにそれを抑え込み、静かに言い放った。「ならば、この村で起こる全ての責任をお前たちが取ることになるぞ。」


奈緒美はその言葉に屈せず、毅然とした態度を貫いた。「私たちは、真実を追う者です。何があろうと、それを止めることはできません。」


山川一郎はしばらく奈緒美の目を見つめていたが、やがて冷たい笑みを浮かべた。「後悔するなよ。」


そう言い残し、彼は廃屋を去って行った。その背中を見送りながら、奈緒美たちは再び決意を新たにした。この村に隠された真実を、決して見逃さないと。

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