第35話 隠された真実

早朝のNDSラボは、いつもと違う静けさに包まれていた。前田奈緒美は、薄暗い部屋の中で一人、最新の事件資料に目を通していた。重厚なドアが静かに閉まり、彼女の集中を妨げるものは何もなかった。奈緒美が目を通しているのは、数日前に発生した著名な政治家、村瀬正弘の不審死に関するものだ。事件は一見、自殺として処理されかけていたが、その背景には多くの疑問が残されていた。


奈緒美は深く息をつき、書類をデスクに置くと、顔を上げた。「彩、何か気になることはある?」


隣にいた中谷彩は、奈緒美の問いかけにすぐに反応した。「自殺としては、やっぱりいくつかの点が不自然だよね。特に、遺体に見つかった異常な痕跡。」


「そうだよね。」奈緒美は頷きながら、村瀬の解剖結果のデータを確認した。「彩、あなたが見つけた薬物反応について教えてくれる?」


彩はレントゲン写真を広げながら説明を始めた。「村瀬の肺から見つかった薬物、通常の自殺に使われるものじゃない。量も異常だし、何より、投与された形跡がある。自分で飲んだわけじゃなさそう。」


「ってことは…他殺の可能性が高いってことか。」奈緒美は考え込むように言った。


「そうだね。でも、それだけじゃないよ。」彩は更に付け加えた。「村瀬の肋骨が不自然に折れてる。自殺する前に誰かと揉み合ったか、それとも何かに押さえつけられて力が加わったとしか思えない。」


奈緒美は深く考え込む。「誰かが村瀬を殺した可能性があるとすれば、動機は何なんだろうね。」


「村瀬が持っていた秘密…それがカギかも。」彩は奈緒美の考えに賛同した。「何かを知っていて、それが原因で命を狙われたとか。」


「その可能性は高いね。」奈緒美は資料を再度見つめた。「でも、その『秘密』って一体何だろう?」


二人の会話が続く中、ラボのドアが開き、神谷悠が足早に入ってきた。彼は手に持っていたタブレットを奈緒美に差し出した。「奈緒美、このデータを見てくれ。村瀬が死ぬ直前に誰かと密かに会っていたらしい。政治的な対立関係にある人物だ。」


奈緒美は眉をひそめながら、タブレットの画面を確認した。「村瀬が会っていた人物…これが事件のカギを握る可能性が高いわね。」


神谷は頷いた。「村瀬の死は単なる自殺ではなく、政治的な陰謀が絡んでいる可能性が高い。」


「それが本当なら、この事件は私たちが思っている以上に深刻なものかもしれない。」奈緒美は目を細めた。「今すぐにでも、村瀬が何を知っていたのか、そしてその情報が誰にとって脅威だったのかを突き止める必要がある。」


彩は少し不安そうに言った。「これ、単なる殺人事件じゃなくて、もっと大きな何かに巻き込まれてる気がする。」


「その通りだね。」奈緒美は断言した。「でも、私たちNDSラボの役目は、どんなに難解な事件でも真実を突き止めること。誰が何を隠しているのか、必ず明らかにしてみせる。」


その時、奈緒美のデスクに置かれた電話が鳴り響いた。受話器を取り、奈緒美が応答すると、警察からの急報が伝えられた。「奈緒美さん、至急来てください。現場から新たな証拠が見つかりました。」


「分かった、すぐに行く。」奈緒美は受話器を置き、彩と神谷に目を向けた。「現場に向かおう。そこで、全てが明らかになるかもしれない。」


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NDSラボのチームは急ぎ、現場へと向かう準備を始めた。彼らが解決しなければならない謎はまだ多く残されていたが、どんな危険が待ち受けていようとも、彼らの決意は揺るがなかった。

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