第22話 犯行

薄暗い路地裏。冷たい夜の風がビルの隙間をすり抜け、都会の喧騒を遠くに感じさせる。人気のないその場所に、一人の男が立っていた。彼の姿は闇に溶け込み、顔はフードで覆われている。まるで、街の一部が人の形を取ったかのように、不自然なまでに静かな佇まいだ。


男は無音のまま歩みを進める。その歩幅は一定で、躊躇や迷いの一切を感じさせない。彼の手には、黒いカバンが握られていた。その中には、精密に計算された犯行道具が揃えられている。


目の前に目的の人物が現れる。標的となる人物は、夜勤を終えたばかりで、家路を急いでいるのか、うつむき加減で歩いている。何も知らず、何も疑わず、ただ日常の一部としての行動だ。


男はその背後に滑り込むように近づき、カバンから慎重に一つの器具を取り出した。それは、普段は医療現場で使われるような注射器だったが、中身は毒物に変えられていた。彼は一瞬の隙を見逃さなかった。標的が歩みを止めた瞬間、彼は手際よく注射器を背中に突き立てる。


標的は驚いた顔をするも、声を上げることはできない。毒が瞬時に体内を回り、生命を奪っていく。男はその様子を冷静に観察し、完全に命が絶たれたのを確認してから、静かに注射器を引き抜いた。


彼はそのまま標的の身体を抱え、近くの廃ビルの中に運び込む。計画通り、誰にも気づかれず、音も立てず、犯行は完了した。そこには、ただ冷たいコンクリートの床と、息を引き取った標的の姿があるだけだった。


男は再び黒いカバンを開け、内部の道具を一つ一つ丁寧に拭き取り、元の場所に戻した。そして、注射器もまた、証拠を残さないように破棄する。完璧なまでに計画された犯行。すべては静寂の中で行われ、何事もなかったかのように、男は姿を消していく。


彼は冷静だった。恐怖も、罪悪感も、何一つ感じていない。ただ、自分のやるべきことをやったという確信と共に、再び闇の中へと溶け込んでいく。彼の顔には、微かに笑みが浮かんでいた。


犯行現場に残されたのは、被害者の冷たくなった身体だけ。周囲には物音一つなく、静寂が広がる。遠くで救急車のサイレンが鳴り響くが、もう何も変わることはない。

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