第12話 不審死の発覚

深夜のNDSラボ。その時間、普段なら静寂に包まれた研究所内に、唯一明かりが灯る一室があった。そこには「Project Mortem」に携わる科学者、佐藤が一人、システムの最終テストに没頭していた。彼はこのプロジェクトが成功すれば、法医学の分野に革命的な変化をもたらすことを理解しており、その使命感が彼の疲れた目をさらに鋭くしていた。


蛍光灯の冷たい光が、佐藤の顔に深い陰影を落とす。時計の針は既に午前2時を過ぎていたが、彼はその事実に気づいていないかのように、画面に向かっていた。コンピュータのモニターには複雑なコードとデータが表示されており、彼はそれらを一つ一つ丹念にチェックしていた。


「これで終わらせるわけにはいかない…」佐藤は小さく呟き、自分に言い聞かせるように再びキーボードを叩いた。このプロジェクトは、彼にとって単なる仕事ではなく、人生のすべてを賭けた挑戦であった。しかし、突然、画面に表示された異常な数値が彼の注意を引く。異常なデータがモニターに映し出され、彼の眉がピクリと動いた。


「これは…?」佐藤は椅子に座り直し、異常値を再確認するためにデータを呼び出した。しかし、同時に彼の視界がぐらりと揺れ、身体が異常を訴え始める。「何かがおかしい…」佐藤は薄れゆく意識の中でそう思ったが、その時にはすでに遅かった。頭の奥に激しい痛みが走り、彼は無意識のうちに頭を押さえた。


全身の力が抜け、椅子から転げ落ちる寸前で、彼はデスクにしがみついた。しかし、呼吸が浅くなり、心臓が不規則に鼓動を打つ。全身の感覚が徐々に鈍くなり、目の前の光景がぼやけていく。佐藤は必死に立ち上がろうとしたが、脚が言うことを聞かず、力なく倒れ込んだ。


「助けを…」かすれた声で何とか助けを求めようとしたが、声はほとんど出なかった。彼の視界は急速に暗くなり、意識が遠のいていく。そして、最後に目にしたのは、ぼんやりと光るディスプレイと、その上に表示されたエラーメッセージだった。


翌朝、佐藤の姿が見当たらないことに不安を感じた同僚たちが彼の研究室を訪れる。ドアを開けると、彼らの目に飛び込んできたのは、床に倒れた佐藤の無残な姿だった。研究室の冷たい床に横たわる彼の顔は蒼白で、目は虚ろなまま固まっている。


「すぐに救急車を呼んで!」一人が叫び、他のメンバーが佐藤に駆け寄る。しかし、その場で明らかになったのは、彼の命がすでに絶たれていることだった。彼の鼓動は停止し、呼吸もなくなっていた。研究室内に漂う静寂が、彼らに事態の深刻さを伝えていた。


この突然の死は、NDSラボ全体に大きな衝撃を与えた。佐藤はラボの中心的な研究者であり、彼が関与していた「Project Mortem」は、ラボにとっても極めて重要なプロジェクトだった。その彼が突如命を落としたことで、ラボ内には計り知れない不安が広がった。


このニュースを受けた前田奈緒美は、すぐに現場へと向かう。彼女は、科学的に死因を突き止めるための法医学のスペシャリストであり、今回の事件の真相を解明するため、その鋭い洞察力と経験を総動員する覚悟を決めていた。奈緒美は現場に到着すると、即座に解剖の準備に取り掛かる。彼女は、佐藤の死因を解明することが、プロジェクト「Mortem」に潜む闇を暴く鍵になると直感していた。


奈緒美は冷静に周囲を見渡し、佐藤が使用していた機器や残された資料に目を通した。研究室には、佐藤が最後に見ていたであろうデータが残されており、奈緒美はそこに事件の手がかりが隠されていると感じた。彼女は慎重にコンピュータにアクセスし、佐藤の最後の作業内容を確認し始める。


「何かがおかしい…」奈緒美は、画面に映し出された異常な数値に気づき、何が佐藤を死に至らしめたのかを探ろうとした。彼女は、自らの知識と技術を駆使して、少しでも多くの手がかりを集めようと奮闘する。


佐藤の死の謎を解くことが、このプロジェクトの行く末を決める。奈緒美は、NDSラボの信頼を守るためにも、この不可解な死の真相を追求する決意を新たにし、研究室を後にした。彼女は、これから待ち受けるであろう困難な調査に備え、心の準備を整え始めた。

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