【毎日17時投稿】最新技術が導く真実、そして隠された過去。命の尊厳を守るため、NDSラボが挑む。あなたは、この真実に耐えられるか?
湊 マチ
第1話 不自然な連鎖
「またですか?」
前田奈緒美は、パソコンの画面を見つめたまま、唇を噛んだ。画面には、複数の高齢者が立て続けに急死したというニュースが表示されている。心臓発作による自然死とされているが、その一様なパターンに、彼女の直感が何かおかしいと囁いていた。
「高齢者の心臓発作なんて、珍しくもないけど……」奈緒美はつぶやいた。だが、どこか腑に落ちない。被害者の共通点を探るべく、彼女はリストを一つずつ確認していった。
被害者たちは、70歳代から80歳代の男女で、全員が一人暮らしをしていた。遺族もほとんどいない。医師たちは皆、彼らの死を年齢によるものと片付けていたが、奈緒美の目には別のものが見えていた。
「これ、偶然じゃない……」
彼女はすぐに上司の榊原明に報告することを決め、デスクから立ち上がった。
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「榊原先生、少しお時間よろしいですか?」奈緒美は、NDSラボのリーダーである榊原のオフィスに入った。榊原は書類に目を通していたが、奈緒美が何か重要なことを伝えたそうにしているのを感じ取り、顔を上げた。
「何かあったか、前田?」榊原の冷静な声が響く。
「高齢者の急死が続いているんですが、どうも自然な死とは思えないんです。全員が心臓発作で亡くなっていて、使用していた医療デバイスが共通しています。」
奈緒美はモニターを榊原の方に向けて、データを表示した。そこには、被害者のリストと彼らが装着していた医療デバイスの詳細が記されていた。
「このペースメーカーが怪しいと?」榊原はリストをじっと見つめた。
「はい。この機器は最新型のもので、心臓のリズムを常にモニタリングし、異常があれば自動的に調整するものです。でも、急死がこれだけ続くのは、偶然とは思えません。」
榊原は数秒間、黙ったまま考え込んだ後、静かに頷いた。
「分かった。詳細を調査しよう。高橋に連絡して、デバイスの解析を進めてもらう。中谷にも連携を頼んでくれ。可能性があるなら、今すぐ動くべきだ。」
「ありがとうございます、先生!」奈緒美はその指示を受け、急いで高橋剛のデスクへ向かった。
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「また厄介な案件か?」高橋剛はデスクの上に山積みになっていたハードドライブから顔を上げた。彼の眼鏡の奥から覗く鋭い眼光が、奈緒美を一瞬緊張させた。
「はい。少し不自然な連鎖が起きているようで……」奈緒美は画面を見せながら、被害者たちが装着していた医療デバイスについて説明した。
「ふむ……これはペースメーカーか。最新型だが、こう連続して心臓発作が起きるのは確かに奇妙だな。」高橋はそのデータを受け取り、すぐに解析を始めた。
「どう思いますか?」奈緒美が訊ねると、高橋はキーボードを叩きながら、少し険しい表情を浮かべた。
「まだ分からん。だが、このデバイスのシステムログを解析すれば、何か見えてくるかもしれない。少し時間をくれ。」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」奈緒美は頭を下げ、今度は中谷彩のラボに向かった。
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「ペースメーカーの話なら、聞いてるわよ。」中谷彩は、微笑みながら奈緒美を迎え入れた。彼女は顕微鏡の前で作業をしていたが、奈緒美の話をすぐに理解してくれた。
「じゃあ、例のデバイスのサンプルを集めるのを手伝ってくれる?」
「もちろん。実際のデバイスに何か異常がないか調べる必要があるし、被害者の血液サンプルも分析するわ。」中谷は手際よく準備を始めた。
「それにしても、デバイスのせいで死ぬなんて……そんなことが本当にあり得るんでしょうか?」奈緒美はふと疑問を口にした。
「可能性は低いけど、ないとは言えない。特に、技術が進歩するにつれて、新しいリスクも生まれるの。私たちの仕事は、そのリスクを見つけて排除することよ。」
中谷の言葉に奈緒美は頷いた。現代の医療技術が人命を救う一方で、その影には見えない危険が潜んでいるかもしれない――その事実に奈緒美は再び緊張感を覚えた。
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数日後、高橋のデスクに集合した奈緒美、中谷、そして榊原は、解析結果を確認していた。高橋が口を開く。
「ペースメーカーのシステムログを解析したところ、ある共通点が見つかった。全ての被害者で、異常な心拍データが記録されていたが、それが死因に直結するものではなかった。しかし、そのデータが特定の時間に集中していたのが気になる。」
「どういうことですか?」奈緒美が訊ねる。
「つまり、ペースメーカーが一定の条件下で誤作動を起こし、心臓発作を引き起こした可能性がある。しかも、何か外部からの信号によってトリガーされているようなんだ。」
奈緒美は驚きを隠せなかった。「外部からの信号?」
「そうだ。電波や電磁波の影響を受けやすい設計ミスがあった可能性が高い。さらに調べる必要があるが、何らかの原因でデバイスが誤作動し、その結果、心臓発作を引き起こしたという結論に近づいている。」
「そんな……」奈緒美はその可能性に戦慄を覚えた。人命を守るための医療デバイスが、逆に命を奪う結果を生むとは――。
「まだ結論は出せないが、このデバイスを使用している他の患者も危険に晒されている可能性がある。企業側と連絡を取り、全てのデバイスの使用を停止するよう提言すべきだ。」榊原が決断を下す。
「企業側がすぐに動いてくれるといいのですが……」奈緒美は心配そうに呟いた。
「我々の仕事は、事実を突き止め、命を守るために行動することだ。企業がどう対応するかは別問題だが、私たちは事実を公表し、彼らに対応を促すしかない。」榊原の声はいつになく厳しかった。
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奈緒美はオフィスに戻り、被害者のリストを見つめた。彼らは全て、命を守るはずのデバイスによって命を奪われたかもしれない――その現実が彼女の胸に重くのしかかる。
「私たちが守らなければ……」
奈緒美は拳を握りしめ、次なる行動に向けて決意を新たにした。彼女の中に芽生えた使命感は、これからの事件解決に向けての強い原動力となっていく。
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