第5話【私の文章】
高校3年になって最初に迎える、1学期の中間テストが間近に迫ってきた午後のことだ った。
EMERALD MOONのフェイバリットソングを 両耳へ聴かせながら、初日の1限目に行われ る英語に取り組む。
健斗が拳(こぶし)を合図に、応援席から颯爽とした笑顔を向けてくれると赤色の焔と一 体化して、パワーが溢れてくるのだった。
翌日、勉が挨拶の教壇に佇むと、テストが配 布され、重苦しいチャイムが響き渡った。
手に汗を握りながらも全ての空欄を黒色の文 字で埋め込むと、安堵感と満足感から黄緑の息を吐き、最後の余白に目を凝らすのだった。
『クエスチョンやリクエストが有れば、記入 して下さい!!」
『先生がEMERALD MOONの神村健斗さんに 似ているので、凄く嬉しいです!!
御守り代 わりにしたいので、北野先生の写真かプリクラを下さい。
それが、私の最大のリクエストです!!
あっ、それから始業式の時は、彼女が居ないって教えて下さって、有難うございました。
そのことを知れて、私とっても嬉しかったんです。
もう、毎日天国に居るみたいです!!』
以前からのリクエストに何の躊躇もなかった のだった。
シャーペンを小鼻と上唇の隙間に挟みなが ら、両手を伸ばして机に突っ伏して茹(う)だっていると、暫くしてチャイムの音色が軽やかに響き渡り、後方から顔を背けた解答用紙が、 息を切らしながら勉まで到着したのだった。
〈北野先生、私のリクエスト読んでくれるだ けでも嬉しいなあ!!〉
想い人への要望の可否の行方を知っている神 仏に、祈り続ける巫女とシスターになったの だった。
「これから、図書館で一緒に明日(あした)のテス勉しない?」
と美有紀に訊ねたら、
「マジでごめん、今日は礼恩(れおん)と勉強するんだ!!」
と、言われてしまった。
人一倍明るくて、可愛らしい容姿をした美有 紀に中学時代から淡い恋心を隠していた五十 嵐 礼恩(いがらし れおん)が、念願のクラス メートになったことで秘めた心境を打ち明け たことがきっかけで、交際へと発展したと訊 かされたのだった。
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