第2話 不本意な転生02
異世界転生に夢見たことはある。小説や漫画で溢れかえっていたコンテンツだ。流行りに乗っかって私だっていくつか読んでいた。戦闘系チートや貴族令嬢への転生には誰しも一度は憧れるだろう。
もし自分がそうなったらどうするかなどと現実逃避することもあった。しかし実際に強制的に転生させられるとなると、色々と思うところはある。説明もなしに放り出されちゃたまったもんじゃない。
「あっ、ハイもちろん!説明ですね!はい!」
説明を促すと、フェイロンはハッとした表情を浮かべ話し始めた。
「えーと、今回は特別な抽選ですので、まず基本の"魔力"をでプレゼント致します。なんと一般的な魔力量の平均よりも100倍です!100倍ですよ?もちろん努力如何によっては魔力量を更にレベルアップさせることも可能です!」
どうやら転生先は魔法のある世界らしい。ファンタジーな世界ならば魔力が無いよりは有るほうがありがたい。けど百倍って、色々と大丈夫なんだろうか。
「それから転生先の衣食住は保証されています。赤子からのスタートですが、まとも養育者がいますからね!」
「それって普通のことじゃない?」
「普通?いえいえ!生まれた瞬間から孤児とか貧民とか劣悪環境な転生者さんけっこう多いんですよ。ぶっちゃけ転生先の環境までこっちで用意する筋合い無いですからね」
「は?」
「あっもちろん転生を自らご希望した方に限ってのことですよ。抽選でアタリとかじゃなくて、死んでとにかく異世界に行きたいからって希望する方最近多いんですよね。まぁ以前は一人一人細やかな希望も聞いてましたけど、異世界渡航課も今は人手不足で手が回らないと言いますか。ともかく、それを考えたら今回は破格の待遇なんですよ!なにせ抽選ですから!特別です!」
「……あのさ、特別だろうがなんだろうがこちとら死んでるの。嬉しくないって言ってんのにドヤ顔しないでくれる?」
「あっ、ハイ。すいません……」
希望もしてない人間を強制転生させる暇があるなら他の転生者たちの待遇にもっと配慮出来ると思うけど。異世界渡航課とやらの仕事はどこかズレているような気がしてならない。いや、車で轢き殺した人間を転生させてあげようなんて考える連中だ。ズレているどころかマトモではないだろう。ああ、もうため息しか出てこない。
しかし異世界転生となると、やはり貴族とか庶民とかいう身分制度があるのだろうか。それともRPGゲームっぽい世界で冒険者がいたりとか?庶民よりは貴族のほうが生活環境は良いだろうけど、できれば悪役令嬢とかヒロインのポジションではないことを祈りたい。
「ではでは早速、魔力の付与をさせていただきます。その後転生先に送りますので~」
「え?今ので説明終わりなの?」
「はい!ぜんぶ解ってたら面白くないでしょ?」
「いや、そんなことは」
ないけど。と言い返す間も無く、フェイロンはなにやら指先をくるりと回した。眩く光る小さな星のようなものが現れる。すると目の前で花火のように弾け、光の粒が身体に吸収され消えた。
「さあ!魔力の付与が終わりましたよ」
「あの、結局なんもわかってないんだけど……もうちょっと説明くれない?」
「それでは、異世界へご案内いたしましょう!」
「聞けよ人の話」
完全にこのまま転生させられる流れだ。これ以上の説明は断固としてしてくれないらしい。これが夢ではないことはすっかり受けいれてしまっている。転生するという実感は湧かないが、ここまで来たらもう諦めるしかない。
フェイロンは私の心情などお構い無しに手を振り指を振り、何やら魔法のようなものを繰り広げている。
神様特有の言葉なのだろうか。まったく意味の解らない呪文のようなものを口ずさみ、フェイロンは真っ白だった空間をあっという間に宇宙空間のような場所に変えた。
「さて、あちらが貴女の今から行く世界です!」
天の川のような星の集まりを指差し、フェイロンが言う。
「太陽も月も一つずつ。平行世界のようなものですから貴女の今まで生きていた世界と基本的には変わりありません。もちろん、魔法の有無や動植物、文明には色々もろもろ差異がありますが」
それって大分違う世界ではないか。神様基準での基本的に変わりないの定義が謎すぎる。宇宙の構造的な意味で根本的なところは一緒ということなのだろうか。それは流石に規模が大きすぎるだろう。
「まあ、詳しくは行ってからのお楽しみということで!」
パチン!とフェイロンが指を鳴らした音と同時に、透明な球体に身体が閉じ込められた。カプセルトイにでもなった気分だ。身体全体がじわじわと光り輝いてきて、これから異世界に送られるのだということを察する。
ちらりとフェイロンへ目を向けると、胡散臭い糸目が開いて紅い瞳がこちらを見つめていた。
「─────それでは、愉しい異世界ライフを!」
こうして、私は不本意ながら異世界転生をしたのである。
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