第51話 歌
ゴルフは主人公に尋ねました。「ねぇ、ケンイチ。彼女できた?」
健一は一瞬間を置いてから、明らかに動揺した様子で答えました。「な、何を言っているんだゴルフ。彼女なんているわけないだろう。」
ゴルフは続けて尋ねました。「じゃあ、この間の人魚は誰?」
健一は少し戸惑いながらも、特に後ろめたいこともないため、正直にことの顛末を話しました。ただし、ゴルフについて悩んでいたことは伏せていました。
「実は、あの日は少し悩んでいて河岸を歩いていたんだ。そこでミリアという人魚に声をかけられて、夕食のお店を紹介してもらったんだ。それで、一緒に夕食をとっただけさ。」
ゴルフは興味津々な表情で健一を見つめました。「ふーん、そうなんだ。でも彼女ができたんじゃない?」
健一は笑いながら首を振りました。「いやいや、彼女なんていないよ。ただ、親切な人魚に助けられただけさ。」
ゴルフはききます、それから何回かあったのかと。
健一は少し戸惑いながらも正直に答えました。「いや、一度きりだよ。あの日以来、ミリアさんには会っていない。」
ゴルフは少しがっかりしたように見えましたが、すぐに元気を取り戻して言いました。「そっか。でも、君にはまだチャンスがあると思うよ。人間もモンスターも関係ない、気になる人にはどんどんアプローチしてみたらどうだい?」
健一は、軽く肩をすくめながら答えました。「アプローチって言っても、特に話すようなこともないよ。俺はただ、あの人がこの村で元気に過ごしていてくれるだけでいいんだ。」
ゴルフは首をかしげながら言いました。「でも、君ももっと自分の気持ちを伝えたほうがいいんじゃないの?ミリアさんだって君と話すことを楽しんでるかもしれないし。」
健一は苦笑いしながら、「それはそうかもしれないけど、今はまだそんな段階じゃないよ。まずはお互いを知るところから始めなきゃね。」と答えました。
健一は思いのほか仕事が早く終わったので、何となくミリアと出会った河岸に足を運びました。川のせせらぎと夕焼けに照らされた景色が心を癒してくれます。
川のほとりで立ち止まり、彼はふと考えました。「ミリアさん、今頃どうしているかな。」と、彼女との会話を思い出し、微笑みます。
その時、彼の耳にかすかな歌声が届きました。振り返ると、ミリアが河岸に立って、同じように夕日を眺めながら歌っていました。彼は彼女の美しい声に耳を傾け、歌い終わるのを待ちました。
ミリアが最後の音を紡ぎ終えると、健一は少し躊躇いながらも声をかけました。「ミリアさん、こんばんは。またここでお会いできるとは思いませんでした。」
ミリアは微笑みながら答えます。「こんばんは、健一さん。こちらこそお会いできて嬉しいです。今日はどうされたんですか?」
「仕事が早く終わったので、少し散歩でもしようと思って。ミリアさんは?」
「私も同じです。夕日の景色が好きで、よくここに来るんです。」
健一は安心したように頷き、「素敵な歌声でした。心が洗われるような気がしました。」と感想を述べました。
ミリアは少し照れたように笑い、「ありがとうございます。歌うことが好きなんです。」と答えました。
二人はそのまま、川のほとりでゆっくりと会話を楽しみました。
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