タバコにまつわるエトセトラ

あめのちあめ

平和

たまたま通りかかった裏路地で、随分と古めかしい由緒正しきたばこ屋を発見したので、暇そうな店番に声をかけた。

「ピース一つ、青いやつをください」

陳列棚には番号すら振られていないので名前と色を伝えるも、この店員は飯の種に全く興味が無いらしい。左上から順に人差し指で確認しながら、のんびりと一つ一つ確認している。そういえばいらっしゃいませすら言われてねぇや。もういっそ潔いよ、この過剰接待の時代にこの昭和感ある対応。

「それ、その右にあるやつを一つ」

見ていられず助け舟を出してしまった、喫煙者に厳しい昨今、これで少しは徳が高まっただろうか。お釣りが出ないように小銭をカルトンに入れてたばこを受け取り、店先の灰皿で早速一服する。

流行ってるアニメ映画の登場人物が吸ってたからか、最近取り扱いが増えた、ような気がする。

昔、祖父の家には缶のピースが置いてあって、空き缶をもらってはきれいに中身を拭いて、貯金箱にしたり何の価値もないきれいな石ころを入れていた。あれは両切でタール28mg、それを延々と吸っていた爺さんは早死して当然だったなと感じるけど、今の時代に喫煙者をしている上に、紙たばこにこだわってる俺のほうが早死しそうな気がする。なんたって箱の下半分には、デザインを台無しにする殺人予告があるのだから。

第一次大戦後に作られた平和の象徴ピース、その殺戮の現場でアメリカの軍人を鼓舞したラッキーストライク、これらは同じデザイナーが手掛けたという。皮肉すぎて言葉が出ないけどこんな事あるんだ。

また、キャッチコピーに夢という言葉を使ったホープ、それぞれのたばこに重すぎる意味が込められていて、昔のたばこっていろいろな地で愛されてたんだなぁと感じる。

今はJTの売上はほとんどが海外需要らしいけど、それもいつか終わるんだろう。日本がそうなったように。

墓参りのときにいつも懐からライターを出してくれてたおじさんたちも絶滅しているんだろう。最後のニホンオオカミもこんな気分だったのかなぁ、なんだか寂しく感じるよ。年に一回しか使われない道具なんて悲しいじゃないか。その分俺が毎日二十回は使ってやるからな。

そういえばしばらく墓参りしてないや、ごめん爺さんとかご先祖様とかその他諸々、この通り元気に喫煙者やってますよ、これは間違いなくあなた方の遺伝なのでどうしてくれるんですか。でも俺もいい年なのでそのへんはスルーします。どうか安らかであってください。

心の中で手を合わせて天までとどけと願い細く長く煙を吐いた。青空に溶けるはずの紫煙は思いの外鋭くて長かった。普段上なんか見ないから、首から変な音がしたけど仕方ない。


これが大人ってやつ?

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