ブロック
@camposanto
ブロック
おれは郵便受けから溜まっていた封筒を取り出すとひとつひとつ見た。どれも電気料金やガス料金の滞納書ばかりで目を通すまでもなくゴミ箱へ捨てた。気が滅入るばかりだ。ふと、その中の一つに見慣れぬ黒い封筒があった。透かしにブロック通知書と書いてある。おれは封筒を破くと紙切れを取り出した。そして一通り目を通す。それは元妻が俺のことをブロックするのを裁判所が認めたことを通知する書類だった。ブロック、最悪の言葉だ。これでもう元妻に会うことはできなくなるだと。そんなふざけたことがあってたまるか。おれはもうほかのことなど何も考えられなくなり、元妻が働いているダイナーへ車を飛ばした。
勢いよくダイナーの扉を開けるとおれは店長のスーザンにシェリーを呼んでこいと言った。そんな娘などいないと答えるのでおれはうるさいいいからシェリーをだせとすごんだ。ダイナーは数人のウェイトレスが働いていた。どれも怯えた顔をしている。スーザンがなにも答えないのでおれはついカッとなって殴った。血を流して傷ついた顔を見ておれは冷静になった。しまった、またやってしまった。周りを見回すと、客たちが冷めた目で俺を見ていた。
そりゃ、そのウェイトレスたちの中にあんたの元奥さんがいたのかもしれないぜ。留置所で一緒になった男がそういった。そんなわけないだろう、あそこにシェリーはいなかった。いや、実際に見たとしてもあんたにゃそれが元奥さんだって認識されないんだよ。言ってる意味がわからなかった。おれも最初は納得できなかったさ、おれの場合は自分の娘だがな、自分の娘がいる学校まで見に行ったんだが、まったくわからなかった。役人にゃクオリアを閉じる処理をした、って説明をされたがな、何言ってるのかさっぱりわかんねえ、ただはっきりしてるのはおれはもう娘には会えない、ってことだけだ。なんだその処理ってのは、いつ受けたんだ、まったく覚えてねえぞ。さあな、おれもわかんなかったさ、寝てる間か朝飯食ってる間か職場へ向かうのにバスに乗ってる間か。ただ処理するのにたいした苦労はないって話だ。
おれのなかに再び怒りが燃え上がった。大声を上げて鉄格子をゆすると隣の部屋から警官が出てきて警棒でおれを殴った。そしてクズが、と無表情に吐き捨てた。今度は悲しみが俺の中から溢れ出てきた。涙が滝のように流れ落ちた。おれは謝ろうと思ったがいったい何に謝ろうと思ったのかもうわからなかった。ただ悲しみだけがあった。
ブロック @camposanto
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます