秘密

天川裕司

秘密

タイトル:(仮)秘密



▼登場人物

●ハミルトン・イースター:男性。43歳。イースター家の御曹司。一人息子。

●レミラ・イースター:女性。35歳。可愛い系のそれなりの美人。ハミルトンを愛している。

●マリーナ:女性。50歳。イースター家の使用人(ストーリー前半では「使用人」と記載)。イザベラの魅力に取り憑かれて居る。同時に女性としての美しさへの嫉妬もイザベラに対してもって居た(この辺りはニュアンスで描いてます)。イースター家の財産を乗っ取ろうともして居た。

●イザベラ・イースター:女性。享年33歳。ハミルトンに絞殺された事になっていた。絶世の美女。

●ラドル:男性。49歳。イースター家の執事。彼もイザベラの秘密を知っている。


▼場所設定

●イースター家:代々継がれてきた名門。ハプスブルク家ほどの栄華を極める。大豪邸で地下室もある(この地下室にイザベラの遺体を隠し続けた)。

●街中:こちらは必要ならで一般的なイメージでお願いします。


NAはハミルトンでよろしくお願い致します。



イントロ〜


あなたには今、秘密がありますか?

人生の秘密です。生活の秘密。

誰しも1つぐらい…いやもっと複数の秘密を持っている事でしょう。

なぜ秘密にするのか?それは二通りの理由があり、

1つは他人に知られてはマズいから。

そして2つ目は自分でも気づいていないその秘密。

意識して秘密にするのはそれほど問題じゃないかもしれません。

けれど、意識せずに秘密にしている事は、

ときに人生を左右する程の重要なものになる事もあるようです。



メインシナリオ〜


ト書き〈大豪邸のイースター家〉


私の名前はハミルトン。

ここイースター家に生まれた一人息子で、

イースター家はここ界隈、いやこの地方、この国を挙げても

3本の指に入る程の名家(めいか)だった。

両親は既に数年前に他界している。


周りの者達は皆我が家を見、

「これほど立派なお屋敷は見た事がない」

「これほど立派な家系は見た事がない」

「お世継ぎになった一人息子はさぞ立派な将来を送るでしょう」

「古き良き時代は今にも残ってる。今こそがその栄華を極める時」

そんな言葉を囃すように並べ立て、

特に実質この家を継ぐ事になった私を見、

天から舞い降りた寵児のように持て成した。

まるで私の事を天使そのものに見る者も居た。


しかしこの家には秘密があった。

世間体を憚り、ずっと隠し続けたその秘密。

その秘密を暴露された時、私もこの家も終わると確信していた。


だからこの家に滞在している召使いも皆、

その秘密を知って見て見ぬふりを決め込み、

警察にも外国の人達にも一切言わず、

家を守り通す事だけを考えていた。


凡人には考えもつかない事だろう。

下層民の者達は不幸だと笑うだろう。

凡人に生まれたかった。下層民に生まれたかった。

いや、もしかすると私の性根(しょうね)は彼ら以下の、

悪魔に魂を売り渡した呪われた者なのだ。


ト書き〈ストーリー現在に戻し〉


私は今年で43歳。

いちど前に結婚しておりその彼女とは離婚して、

今は新しい奥さんを我が家に迎えた。


彼女の名前はレミラ。

美しいと言うより可愛らしいと言う方が似合い、

清楚で慎ましく、奥さんにするにはこの上ない人だった。


ただこの家の使用人の中には彼女を嫌う者もおり、

それは得てして前の妻・イザベラの美しさや教養、

その魅力に酔わされた者の成れの果て。

レミラには、

「そのような使用人の言う事もする事も一切無視しろ」

と言っておいた。


かと言って、この家に長く居続けてくれた使用人達は

曲がりなりにも私の生活を助けてくれていた。

だから邪険にする事はできず、仕事を辞めさせ、

ここから追い出す訳にもいかない。


この事さえ、心密かにイザベラの呪いのようにも思えたものだ。


ト書き〈トラブル〉


私は前の妻を忘れる為に新しい妻を迎えた。

貯蓄だけはこの通りにあったから生活はでき、

その後に迎える妻ならどんな女性も幸せにできる、

その自信は端(はた)から見ても納得できるものにあったろう。


しかしその妻としてここにやってきたレミラは、

或る時からイザベラの存在を執拗に気にするようになった。


周りの者達は過去にすがるようにしてイザベラの美しさを思い出し、

彼女を讃え、そのつどレミラと見比べた。

美しさを見比べ、教養を見比べ、知性を比べ、

人の存在そのものが持つ魅力を見比べた。


これに我慢ならなくなったのだろうレミラは、

或る時から遠回しにもストレートにも

その事ばかりを私に問うようになり、

「彼女の事はもう忘れて」

「未来に生きて」

「私と彼女はそんなに違う?」

「今はもう私のほうを愛してくれてるでしょう?」

と笑いながら泣きながら、むずかるように聞いてくる。


でも私はその事について当然話したくない。

思い出したくない過去(ひみつ)が甦ってくるからである。


ラドル「もうそんな事を聞くのはやめなさい!」


その様子を見かねて或る日、使用人の1人、

執事を担当していたラドルと言う男がレミラを叱ってくれた。

かなりの大声で、その時の私の心と同じようにしてレミラを叱り、

「二度とイザベラ(かのじょ)の事についてはもう触れるな」

とまで言ってくれた。

私の代わりに彼女を叱ってくれたのだ。


でもそんな事で、彼女の好奇心に似た怒りの感情は収まらない。

やはり嫉妬と悲しさで今を悲観し、

それでも私を愛しているからと

彼女はその過去を辿り続けた。


知って欲しくないその過去、その秘密…。


私はまた或る日からレミラを警戒するようになり、

必要ならばまた1つ、秘密を作らねばならないか…

そう思っていた。

これについては周りの使用人達も賛同した上で。


それだけ名家の家柄を守ると言う事は

凡人にも下層民の者達にも想像つかない物事にあり、

体裁を繕い保身に過ぎるから、時に愚かを極めた

自滅の道へ進むのである。


マリーナ「彼女、どうしますか?ここから出て行って貰ったほうが良いんじゃないですか?あなたの秘密は私達の秘密。無論あなたに責任がありますが、私達はそれを守ります」


レミラの事をずっと嫌い続け、

イザベルの魅力に取り憑かれていたその使用人・マリーナは、

或る日そう言って私を嗜めるように

今後の身振りを決めなさいと上から目線で言ってくる。


使用人でありながら彼女がそのような立場に立てるのは、

彼女が私の秘密を最も良く知っていたから。


私は納得しながらも良心の声に耳を傾け、

家を守るべきか人間を守るべきか?

その2つに1つの道を選ぼうとしていた。


ト書き〈オチ〉


それから数日後。

いつもの仕事を終えて

私が1人寝室で眠ろうとしていた時の事。


レミラが部屋に入ってきて、これまでの事を清算する勢いで

今の自分の正直を私に訴えてきた。


レミラ「あなたがもう私を愛して居ないならそう言って下さい。今すぐにでも出て行きます。でも私はあなたの事を心の底から愛してます。世界一愛してるんです。あなたが今この家を出て、財産を全部失っても私はあなたに付いて行きます。私が愛したのはこの家でなくあなたですから」


レミラはそのとき考えられる心の全てをもって、

私に全霊の愛を傾けてきた。

「それが本当だ」と私の全身を覆うまでのぬくもりを見て、

私もその一瞬、レミラを愛し、見直し、今後の2人の将来だけを考えた。

彼女が言うように、この家を出ても良い…

初めてその事を考えたのだ。


ただ私は両親を愛し、祖父母を愛し、これまで代々

この家を守り続けてきたあの古き良き時代の人々を守ろうと愛していたので、

その形だけに囚われてこの家を出る事が出来ないでいた。


しかし彼らは私の心の中に住んで居り、

私がこれから行くところにならどこにでも付いてきて、

本当の愛を教えてくれるこの彼女、

レミラを心から歓待した上やはりそこに居てくれる。


それを今更ながら教えてくれたレミラの前で、私は心を丸裸にした。

光が闇に打ち勝ち、正義の目に隠れる事のない

人間の闇の部分を知ったのだ。


そして私は全てを打ち明けた。


レミラ「そ、そんな…そんな事が…」


私こそがそのイザベラを殺した犯人だと聞き、

やはりレミラも驚きを隠せなかった。

「今、自分は人殺しと話をしている」

その恐怖を目の当たりにしたのだろう。


だが私の話す事を聞き、レミラはそこに踏み留まった。

逃げず、私の正義をそれでも信じてくれたのだ。


レミラ「その空白の時間、あなたはどこで何をして居たの?もし警察に行っても、そこを訊かれると思うわ。状況から見てあなたの犯行だと思われても仕方がないけど、そう仕組んだ人がその場に居たなら話はまた変わってくるわ。どうも解(げ)せないのよ。その空白の時間がある限り、あなたの犯行とは立証されない。いえ、誰も立証する事ができないわ」


私がイザベラを夫婦の寝室で殺した時、

私の手にはロープがしっかり握られ、

そのロープはイザベラの首にしっかり巻き付けられていた。


私はその夜、イザベラとは別にしこたま飲んでおり、

その酒の酔いが悪いほうへ回り、既に酩酊状態で、

自分がそのとき何をしていたか本当に分からない。


ただイザベラに対する憎しみだけが心の底から湧き上がり、

記憶を失くしてなくても「必ずそのうち彼女を殺す」

その思いだけはハッキリ今でも覚えてる。


だから分からない。


もしかしたら本当にあのとき私が彼女を殺していたのではないか?

その感情だけがクッキリ甦ってくるのだ。


イザベラに対して殺す程の憎しみを覚えた理由は1つ。

彼女が余りにもあばずれで、その教養や知性、

魅力・美しさからは程遠い、悪魔の気質を持っていたから。


彼女は結婚するなり僅か3日で本性を現し、

自分のしたい放題な奔放な生活を送り出し、

初めは私に隠れて密会し、そのうち公認の形で昼間から堂々と、

男を自分だけの部屋に連れ込むようになっていた。


その連れ込む男の内には身内も含まれ、

その欲望は文字通り見境なく、留まる事も知らず、

恥知らずを絵に描いたようなもの。


家を守る為なら無下に彼女と離婚できない。

まるで国を挙げる様にして宴を催し、

そこにつどった全員に彼女との幸せを見せ付けたのだ。

名家でありながら、その離婚は恥になる。

その事を彼女もよく知っていた。


美しい、賢い、魅力的、などと、

散々周りに囃されたイザベラだったが、

彼女の極悪の本性は美し過ぎてかしこ過ぎ、

魅力に過ぎて人を狂わすものだった。

自分を狂わすだけならまだしも周りも狂わせてゆく。


彼女の存在そのものが、狂いの原因だった。

そしてその狂いが私の秘密を生んだのだ。この家の秘密を。


あの時の私とイザベラだけの寝室は、ドアにも窓にも鍵をかけ、

事が終わってからもその状況は変わらなかった。

つまり誰も入って来れない状態。

鍵は全部、内側から掛けられている。


そして私は自分と家を守る為、そのとき初めて部屋のドアの鍵を開け、

イザベラの遺体を両手で抱え、部屋から持ち出し、

そのままこの豪邸の地盤に眠る地下室まで降りて行く。


イザベラの遺体は今でもそこにある。


(その地下室にて)


レミラ「…これがイザベラの…」


私はレミラを案内し、その地下室まで連れて行き、

そこで初めてイザベラの体を彼女に見せた。

嘗てこの世に存在していた彼女の命。

まだその命が目の前にあるかのように

レミラは暫く黙って彼女を見ていた。


ト書き〈その後〉


その後、私は何とか殺人の罪だけは逃れる事ができていた。

レミラが一生懸命私を庇い、しつこい程の単独調査の成果もあって、

第二の悪魔がその姿を現したのだ。


その悪魔の正体はあの使用人・マリーナだった。


レミラ「どうして…どうしてそんなひどい事を…」


マリーナ「…世の中を知らない坊ちゃんには、所詮この家を継ぐ事は出来ません。だから私が代わりに引き継ぎ、この家の財産を乗っ取ろうとしたまでの事」


彼女は淡々とそう言い、警察の目をかいくぐり、

この豪邸の屋上まで行ってそこから身を投げて死んでしまった。


そのとき私にはマリーナが、長年この家に居座っていた

イザベラの一見美しく中身は極悪の、人を狂わす過去の魅力も一緒に

その腕に抱いて地中の奥深くまで沈んでいった…

そんなふうに感じられた。


マリーナはあの夜、私とイザベラの寝室に先に忍び込み、

クローゼットの中から私達の様子をずっと伺いながら、

出てくるタイミングを待っていた。


そしてちょうど私とイザベラが喧嘩を始め、

私がやり切れなく酒を飲み続けていたのを見、

自分の出番をそこで伺い知ったと言う。


よく思い返してみれば、あの時ふっと気を失ったその直前、

布のような物を口に当てられていたかもしれない。

なにぶん酩酊し、ベッドに顔をうずめていた私だったから、

その辺りの事は本当によく覚えていない。

ただ「そうだ」と言われたらそんな気もしてくる…

その程度。

おそらく布には眠り薬でも染み込ませていたのだろう。

更に記憶を失わせる為に。


でもなぜマリーナが自分から罪を告白したのかよく分からない。

彼女にも何らの秘密があって、それを現実に隠しきれず、

良心の光に照らしていたのか?


人には秘密があるものだ。

気づいている秘密とそうではない秘密。


私は今、レミラにその秘密が無いものかと、少し不安に疑っている。


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=UtnBXH5m0oQ

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秘密 天川裕司 @tenkawayuji

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