67.なんとなく誇らしい気持ちになった。
「マシュー様。今後、何か困ったことがあれば何なりと私めにお申し付けください。そこのクレイグめより役に立って見せましょう」
僕はゴードヴェルに両手を取られて握手した。
こうなんというか、随分とイメージが変わったなあ、と思わざるを得ない。
本当に父のことを慕っていたのだと分かる。
王族として魔術師として、父はゴードヴェルの中で大きな存在だったのだ。
幼い父の何が彼を惹きつけたのかは分からないけど。
なんとなく誇らしい気持ちになった。
帰り際は「私の我が儘で王族にまで迷惑をかけたのは失態であった。今後も良き付き合いを求める」と周囲に聞かせたゴードヴェルに退出の挨拶をして、僕とクレイグは馬車へと戻る。
「何がクレイグめより役に立って見せましょう、だ。下手に動かれると迷惑だという自覚がないのか、宮廷魔術師第一席にしてイーヴァルディ侯爵家当主には?」
根に持っていたんだな、と思いつつ「心強い味方ができたね」と応える。
「確かに最強に近い鬼札だ。しかし使い勝手が悪すぎる」
「確かに頼み事をしたら大事になりそうだね」
「絶対に頼るな。頼るならまず俺に相談しろ、いいな?」
「分かったよ、クレイグ」
馬車で不機嫌そうなクレイグを宥めつつ、僕は幼い父が一生懸命に魔術に取り組んでいたんだなあ、とぼんやり考えていた。
そんな父が魔導院を去ってまで短い間、一緒になった母シャロニカマンサとはどういう人なのか。
魔術よりも大切な人ができる、という感情をまだ僕は知らない。
翌朝、魔導院の教室に入ると、早々にウルザが近づいてきた。
「おはようマシュー。あなた一体、父に何を吹き込んだの?」
「おはようウルザ。何事だい?」
「……昨晩はやけに機嫌が良くて、何度も『マシューは素晴らしい才能の持ち主だ。あの少年と会えた私は今後、この国がますます発展していくことに確信を持った』とベタ褒めよ。あんな父は初めて見たわ」
「それは……随分と買いかぶられたね」
「……っ、あの論文の釈明もまだなんだからね? マシュー、あなたは」
そのとき僕の背後から「おはようございます」とジュリィとアガサが教室に入ってきた。
話を中断せざるをえなくなったウルザが不機嫌そうに「おはよう、ジュリィ。アガサ」と挨拶をする。
僕も「おはよう」と告げて、トバイフとエドワルドのところへ逃げた。
ウルザが「あ、こいつ」と眉を上げたが聞かなかったことにする。
トバイフとエドワルドは僕とウルザを交互に見て、「また何か秘密の話かい?」「まるで痴話喧嘩のようだな」といらぬ感想をもらった。
僕は「いやなに。昨日、放課後にクレイグ教授とウルザのお父上に呼び出されていたんだ。その話だよ」と答える。
その言葉にトバイフとエドワルドは互いに顔を見合わせ、凄く渋い顔になった。
「ウルザのお父さんて……宮廷魔術師第一席の? てことは昨日は王城に行ったのかい」
「また凄いのに目をつけられたな。それでウルザがお冠なのか」
「ああ、ウルザってお父さんをかなり尊敬しているからね」
「ふん。ファザコンというのだろう?」
トバイフとエドワルドが率直すぎる意見交換をしている。
僕は苦笑しつつ「ウルザがお父上のことを尊敬している様子なのは分かったよ」と会話に混ざった。
その後、数日ほどウルザから逃げ回ることになったけど。
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