13.おはようございます、ウルザ様。

 翌朝、出発しようとしていたところへ、昨日やって来た騎士が次の街まで同道しないか、と打診してきた。

 曰く、戦える者が多い方が安全だ、とのことだが。


「……まあ言ってしまうと、我が主が君たちにご興味をお持ち遊ばせたというわけだ」


「興味、ですか?」


「ええ。我が主は馬車の旅に殊の外、退屈しておりまして。話し相手としてそちらの少年をご所望なのです」


「ご所望って……俺たちの護衛対象なんだが?」


「断じて粗略に扱うことはありません。それに同い年くらいの話し相手が欲しいという主の言い分も私たちには無視できないものがありまして――」


「同い年くらい? こっちのマシューとか?」


「その少年の名がマシューというのなら、そうですね」


 ユーリは「そういうことなら仕方ないですね」と溜息まじりに了承する。

 ルカは笑顔を絶やさないが、内心で何を思っているのかは分からない。

 さてどうやら僕は貴族の退屈しのぎのために話し相手にならなければならなくなってしまったようだ。




 馬車の扉が開かれる。

 そこにいたのは、美しいブロンドを腰まで伸ばした僕と同じくらいの年頃のお嬢様だった。


「馬車の上から失礼するわ。イーヴァルディ家の長女ウルザ・イーヴァルディよ。マシューと言ったわね、どうぞ馬車にいらして」


「はい」


 僕は馬車に乗ろうとする。

 騎士のひとりが「腰の剣をお預かりします」と言ってきたので、ショートソードを預けた。

 ウルザの隣には二十歳くらいの女性の侍女が座っていた。

 僕はふたりと対面の椅子に座る。

 と同時に馬車の扉が外から閉められた。


「改めておはよう、マシュー。私はウルザ・イーヴァルディ。ウルザでいいわ。こちらは私の侍女のティシーよ」


「おはようございます、ウルザ様。僕はマシューといいます。よろしく」


「ふふ、そんなに固くならなくてもいいわ。馬車の中では楽にしていて。私もお行儀を悪くするから。そうじゃないと馬車の旅なんて疲れるばっかりじゃない」


「ええと……貴族に対する礼儀とか僕、よく分からないんだけど」


「ええ、だから普段通りにしていてくれて構わないわ。誰も怒らないから」


「はあ」


「ねえマシューはステータスを開ける歳になったの?」


「いえ。まだです。ウルザ様は?」


「私もまだよ。そろそろ誕生日が来るから、今から楽しみなの」


「なるほど。僕もそろそろだと思うんですけど……誕生日からズレることも多いと聞くし、今からドキドキしています」


「そうなんだ。さっき剣を預けていたけど、マシューは剣士なの?」


「いえ、あれは村を出るときに貰ったもので、剣の扱いは知りません。父は魔術師で、僕も一人前の魔術師になりたいと思っています」


「そうなの。私も魔術は好きよ。いずれは魔導院に入学するつもりでいるわ」


「魔導院、ですか?」


「知らない? 王都にある魔術を学ぶことのできる教育機関。いえ研究機関というべきかしら。ともかく王都にある魔術が大好きな人たちが集まる場所なのですって。素敵よね」


「そんな場所があるんですね」


「一流の魔術師になるなら、魔導院を出なきゃね。マシューは平民だから入学するのは大変かもしれないけど……でも平民でも才能と実力が認められれば入学できるそうだから、頑張ってみてよ」


「そうなんですか。それじゃあ頑張りたいです」


「そうそう、その意気よ」


 馬車は既に出発している。

 侍女のティシーは黙したままジッと座っているだけだ。

 本当に退屈だったのだろう、ウルザはよく喋った。


 そういえば女の子はお喋りが大好きだったな、と故郷の村の幼馴染アガサのことを思い出す。

 それにしても気を使う会話を続けるのは大変だ。

 いくら態度を楽にしてもいいからと言っても、限度はあるだろうから。

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