第9話 お前の彼女最高に気持ちよかったぜ!!

 情報は十分に集まった。

 配信すれば、これほどの膨大な量の情報が集まるとはな。最初からこうすればよかった。


 おかげで北村に関することはほとんど分かった。

 ヤツはかなり前から俺のことを意識していたようだ。恨みが募り、俺に嫌がらせをはじめた。それは次第にエスカレート。“寝取る”という許しがたい蛮行に走った。


 最初こそは悪魔の囁きで、ほんの僅かに興奮してしまったが物事には限度ってモンがある。

 ヤツは俺を怒らせた……!


 この社会から抹殺しなければ気が済まない。



 配信を終わり、俺は眠った。明日に備える。次の日になれば俺は直ぐに北村を追い詰める。アイツの過去に起こした犯罪、現在で起きている寝取られ事件。そして、未来に起こりうるであろう、更なる寝取られ。



 アイツがいる限り、俺の彼女ヒロインは寝取られ続けてしまう。



 もう許せん。絶対に許さん。泣いて謝っても許さん!



 清々しい朝を迎えた。

 睡眠時間たったの十五分とショートスリーパーも驚きの朝を迎えた。不思議と睡眠不足感はない。

 今の俺は阿修羅すら凌駕する存在なのである……!



 さっそくパソコンからデータをリークしていく。

 もちろん、北村の不正の数々をな。



 学校掲示板、SNS、動画サイト、ニュースサイトなどあらゆる媒体を活用し、北村の『万引き』を証拠付きでアップロード。


 すぐに拡散した。



「……これで終わりだ」



 俺は勝利を確信した。これほどネットに広まれば北村は自動的に裁かれるだろう。大炎上で叩かれまくるか、ネットのオモチャになるか……それとも直ぐに警察が動くか。なんにせよ、見ものだ。



 直後、霜野さんからメッセージが飛んできた。



【霜野】:ねえ、北村くんの情報ってホント!?

【聖】:本当だよ。昨日、配信で得た証拠付きの情報さ

【霜野】:そ、そんな……あんな人だったんて!

【聖】:霜野さんもアイツとの付き合い方は考えた方がいいよ

【霜野】:う、うん。そうするね……



 霜野さんは、だいぶ焦っている様子。……あんな奴に股を開くから、こんなことになるんだ。正直あまり同情はできない。


 更に、希愛からもメッセージがきた。みんな朝から反応がいいな。



【希愛】:ちょっと! 聖くん。とんでもないニュースになってるよ!

【聖】:俺の力さ

【希愛】:で、でも良かったの? 学校とかバレバレじゃん

【聖】:リスクは承知の上だ。北村を消せるなら安い代償さ

【希愛】:心配だなー…

【聖】:気にするな。俺は学校を退学になっても問題ない。金だけはあるからな

【希愛】:えー。聖くんいなくなったら寂しいよ

【聖】:それは嬉しいけど、疑いが晴れたわけじゃない

【希愛】:だから北村くんと寝てないって! って、朝から何言わせてんのよ



 希愛の反応はなくなった。

 ここまで必死になられると信じてもいいかもしれないと思ってきた。今ならまだやり直せるかな……。いや、北村の件を片付けてからだ。



 制服着替え、支度を進めた。


 カバンとスマホを持ち俺は玄関へ。自宅を飛び出て早々、人影がさえぎった。……む、なんだ?



「聖!! おまえ!! よくもォ!!」



 そこには俺の名前を叫ぶ男がいた。……な、なぜコイツが! 北村じゃないか!


 俺は昨日の情報収集で写真を手に入れていたので、容姿を知っていた。

 あの茶髪で優男な感じ、泣きボクロ。北村で間違いない!


 奴は絶望感を漂わせ、涙目になって俺につかみかかってきた。



「よく俺の家が分かったな」

「あたりまえだ。聖お前の家は尾行して特定済みなんだよ!」



 げっ……マジかよ。ストーカーかよ。気色悪いな。



「北村、お前は俺の大切な彼女を寝取った。それを倍返しさせてもらった」

「……あぁ、気持ちよかったぜ! 希愛ちゃんも霜野さんも……そして千夜もな!!!」


 …………なん、だと…………!?



 今、コイツ、希愛と!!



 違う。希愛は否定したじゃないか! 俺は希愛を信じる。コイツの言っていることはデタラメだ。雑音だ。ただの電波だ。聞く耳もたん。


 だが、俺の怒りは限界を突破しそうだった。



 ……この男をじわじわとなぶり殺したい。だけど抑えた。暴行だけは俺のポリシーに反する。



「…………ッ」

「うまく感情を抑えたようだな、聖。なら、もう一度言ってやるッ!! お前の彼女は最高に気持ちよかったぜ!! 前も後ろも……上も下も全部な!!」



 く、


 ぐ…………ぐううううぅぅぅぅぅ………(ビキビキ)



 血管がはち切れそうだ。


 殴りてぇ。一発でいいからブン殴りてぇ……! 某スパイのような殺人のライセンスがあれば合法的に北村を射殺したい。

 この際、デスなノートでもいい!!



「こ、ろ……す」


「あぁん!? 聖、今……なんて言った? 殺すぅ!? それは脅しだよなァ!? 恐喝でお前も逮捕されるぞ!! お前の人生終わりだ! 暴露系インフルエンサーとしての地位もおしまいだ!! 証拠はこのボイスレコーダーで取った!」



「け…………」



「――は?」



「俺は今コロスケと言ったんだ」

「苦しい言い訳を!!」


「うるせえええ! ボイスレコーダーを寄越せ!!」



「聖、お前は終わりだ! この音声を学校の校門前で流してやる!!」



 いきなり走り出す北村。……なッ、なにを!


 野郎おおおおおおおおおおおお!!


 俺は全力で北村を追う。


 クソ、アイツはどこまで俺をコケにすれば気が済むんだ。ふざけんな! ふざけんな! アイツが地獄に落ちるべきだろうが! 俺を馬鹿にしやがって。



 走りまくって北村の背中を追った。



 ついに学校に到着してしまった。


 校門前では北村がボイスレコーダーの【再生】ボタンを押そうとしていた。



「やめろおおおおおおおおお!!」

「遅い! 聖、お前は終わりだ! 道連れにしてやるッ!!」



 くそ、くそ、くそ、くそ、くそ、くそ、くそ、くそがああああああああああああああああああああ!!!


 あんな野郎に負けてなるものか……! 諦めない。俺は諦めない!


 再生される前にボイスレコーダーを取り上げようとするが。



『ピッ』



 ボタンを押されてしまった。



 ここまでか…………。




 諦めかけたその時。

 遠くから“複数の声”がした。ドタドタと騒がしい足音。それも一人や二人ではない。十、二十と増えていくような。そんな大人数の気配を感じた。



『うおおおおおおおおおおおおお!!』『ニューを助けろ!!』『ニューくん駆けつけたぜえ!』『マジでニューがいて笑った』『ここがニューの学校かー』『北村を潰しにきたぜ!』『私も来ました、ファンです!』『何百人いるんだよ、ヤバすぎ』『あれが北村か! 犯罪者が!』『万引きは立派な窃盗で犯罪ですよ』『そうだそうだ! 掴まれドアホ!』『通報しました!』『リアル逮捕見れるー!?』『お祭りかな!?』『なんだよこれえ~! 人多すぎ』『リアル凸完了』『パトカー来たよ』『ニューくん結婚してー!』『俺もこの学校入るわ』『ボイレコ取り上げておいた!』




 お、お……おおおおおおおお!?



 まさか、これ全部……視聴者リスナーなのかよ。ウチの学校の奴らも複数いるが、それでも知らん奴が大多数。子供から学生っぽいヤツやサラリーマン、じいさんばあさん。


 いくらなんでも集まりすぎ!!


 これが俺の“影響力”ってヤツか。



 この圧倒的な人数を前に、北村は腰を抜かした。



「な、な、なんじゃこりゃあ!!!」



 へなへなと崩れ落ちる北村。ボイスレコーダーもいつのまにか奪われ、完全に詰んでいた。次第に涙をボロボロ流していた。ついでに失禁していた。あわれ!


 まさか、こんなことになるとは。


 だけど自身の個人情報を晒したかいがあった。これで北村は終わった。

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